技術、場所、時間の翻訳の上に成り立つ「内藤廣建築」まとめ

技術、場所、時間の翻訳の上に成り立つ「内藤廣建築」まとめ

はじめに

「好きな建築家は?」と聞かれることがあったら迷わず内藤廣さんの名前を挙げています。いくつもの建物を見て、何人もの建築家の本を読んでみて、内藤さんの考え方が自分に一番響いてくるものがあるのです。

建築家とは奇抜さや前衛さが個性なのかと思っていた頃に、建築とはどういうものであるのかを教えてくれたのが内藤さんです。

東大で教鞭をとっていた頃に行なった講義の内容を書き起こした本があるのですが、それが自分にとってのバイブルになっています。

「環境デザイン講義」、「構造デザイン講義」、「形態デザイン講義」の3冊です。それ以来、機会があれば内藤建築を見に行っています。この記事では今まで見てきた建物を紹介します。

高知駅

高知県産の杉で造った駅舎「高知駅」

高知の玄関口としての、木とスティールのハイブリッド架構によるトレインシェッドの駅舎です。大屋根の梁には高知県産杉の集成材が使われています。片方の屋根は駅前の通路までを覆っているのが特徴です。

牧野富太郎記念館

コンテクストの解読「牧野富太郎記念館」

高知の五台山の中にあり植物園を含む敷地に立つ博物館です。屋根の構造に苦心したようで、というのも山の下から吹き上げる風が屋根を持ち上げるように力がかかってくるのです。記念館の建物内もいいですが、外部の軒下空間が私は好きでした。

弧を描く屋根が自然を取り込むように環境との距離を近くし、場所を翻訳する建築行為とはこういうものなのだと感じました。

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福井県年縞博物館

湖に向けた情緒的な軸線「福井県年縞博物館」

湖の近くにある博物館です。水月湖から世界的に貴重な年縞データが取れたため、それらの展示があります。そしてどのように展示するかということと、建物の構造的あり方の両方を満足するように解かれています。その結果できたハイブリッド構造で湖に向けた軸線を持つ建物は形の美しさがあります。

富山県美術館

回遊性とシークエンスのある内部構成「富山県美術館」

富山市の環水公園の一帯に立つ美術館です。建物には富山の主産業であるアルミや富山県産の杉が使われています。中にはその導き方の巧さに思わず感動した廊下(順路)があります。そして直線に長く伸びる廊下を含め、美術館の中を外の景色を絡めとりながら巡っていく回遊性が素晴らしかったです。

海の博物館

空間から時間への変換「海の博物館」

伊勢湾に面した博物館で、内藤廣さんの代表作です。そして私が最も好きな建築でもあります。切妻屋根の展示棟や収蔵庫棟が分棟配置されており、建物間を一旦外に出て廻っていくのですが、周辺環境が敷地内に入り込んできているのが素晴らしいです。

奥に少し進めば海に出られ、敷地の境目がどこであるのかも分からないまま歩き回ったのを覚えています。

そしてとても素晴らしかったのがプレキャストコンクリートでできた収蔵庫棟です。中には古船が置いてあり、その空間は静まり返り、外の微かな音が中に入ってくるだけです。そこに身を置くと異なる時間軸の中に移動してしまったような感覚に陥りました。

1992年に作られた建物はいい年の取り方をしています。これが内藤さんの言っていた時間の翻訳なのだと実感しました。

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安曇野市庁舎

その場所に恒久的に存在する建物のデザイン「安曇野市庁舎」

地元の建築設計事務所と共働で設計した安曇野にある市庁舎です。とにかく求められたのは質実剛健な建物であることでした。その結果できた真四角な建物内には長野県産のカラマツがふんだんに使用されています。中には大きな吹抜け階段が2つあり、全体として簡素な構成です。

市庁舎という建物にはこれくらいが丁度いいのだと思いました。内藤さんも面白さを求めたデザインは短期的に消費されるものであるから、日常的で長期的に使われるものは求められるものが違うというような要旨のことを述べていました。

安曇野ちひろ美術館

街そのものがアプローチであり敷地である「安曇野ちひろ美術館」

山々に囲われた安曇野の雄大な土地に立つ美術館です。展示が多すぎないようにコントロールされ、それよりも建物内から自然を見たり、外に出て歩いてみたり、この場所であるからの良さを建物を通して再発見してもらうようなところです。

連続した切妻屋根の建物はボリュームが小さく抑えられていて、屋根型をそのまま感じられる空間はそこに身を置くと安らぎをもたらしてくれます。

ちひろ美術館・東京

童心に帰れる場所「ちひろ美術館・東京」

練馬区の住宅地にある美術館です。ここはかつていわさきちひろさんが住んでいた土地でもあります。分棟された建物を廊下で繋ぐ構成で、庭が効果的に設けられています。住宅地の中にあるということで建物内に入っても住宅スケールが感じられるような大きさになっています。

このはなアリーナ

静岡県にある木材に囲われた体育館です。外観はチタン亜鉛合金板の外壁・屋根で、内部には県産杉の集成材が使われています。RCの円盤の上に長期荷重を受ける集成材、その裏に短期荷重を受けるスティールの屋根架構が組まれています。

全体とした特徴があって、短期的に消費されるようなデザインはそこには存在しません。大きなものに包み込まれる安心感がある空間でした。

旭川駅

内外に広がるサードプレイス的な駅舎「旭川駅」

北海道にある駅周辺のまちづくりの一環として新たに作られた駅舎です。プラットホームの四叉柱が箱型の大屋根を支えています。屋根は鉄骨トラスが簡単に組まれているだけですが、人が通行し目に止まりやすい足元部分のデザインが特長となっています。

またコンコースには北海道産のタモが小幅板で使われていて、ラチ内には1万人の名前が刻まれた板が張られています。同じ北海道の岩見沢駅でレンガに市民の名前を刻むというプロジェクトが成功した事例を元に、旭川駅でも行われました。

市民を巻き込んで建物を作っていくというのは公共施設のあるべき姿なのだと思われます。

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とらや赤坂店

檜に包まれる上品な空間「とらや赤坂店」

赤坂御用地に沿った青山通りに面して立つショップと菓寮の入る建物です。羊羹で有名なとらやですが、最上階にある菓寮からは赤坂御用地の自然風景を望みながら食事を嗜むことができます。扇型の敷地に合わせた扇型の建物で、主に鉄骨で出来ています。

屋根は片持ちのように繊細なスティールの骨組みで、内部はヒノキで覆い尽くされています。地下にちょっとした展示もあり、垂直方向にアクティビティが展開する様子をガラス張りの外壁を通して外から望むことができます。

虎屋菓寮 京都一条店

日本風情の再構築「虎屋菓寮 京都一条店」

京都御所の西側の通りを入った先にある菓寮です。深い軒を下ろした建物は通りからガラス越しに向こう側の中庭を望めます。瓦屋根や縁側、簾戸と和を感じさせる要素とともに日本庭園的で、その敷地は別の方角へと抜ける遊歩道があり、周囲と断絶されないようになっています。

内部には吉野杉の集成材による天井があり、意匠的であるのに構造的重要な役割を持っているという合理性があります。庭を見ながらの食事をするのをより楽しませてくれる空間でした。

茨城県天心記念五浦博物館

岡倉天心の愛した五浦海岸を望む「茨城県天心記念五浦美術館」

茨城の五浦海岸に立つ美術館です。工期が短くかつ塩害のある海岸沿いということでプレキャストコンクリートが導入され、1,200ピースのPCa部材が使われています。

建物内からは開けた海側を望むための開口が休憩スペースとともに設けられています。そこに座って鑑賞するピクチャレスクな風景は自然が生んだ儚い作品に感じました。

最上川ふるさと総合公園センターハウス

山形の最上川沿いの公園に立つ複合用途の施設です。この建物は初めはパビリオンとして、その後に温室や通常利用に使われる前提を一つの建物で可能にしなくてはならなかったのです。

さまざまな問題が解決され最終的に出来上がったのが、すり鉢状でガラス張りのこの建物です。天井にはこの地方特有の積雪を考慮しなくてはならないため、網目状に張弦梁が組まれており、そこも見所になっています。

おわりに

他にも日向市駅やグラントワなど、まだ見られていない作品が多々あります。内藤廣さんの建築に一貫して言えるのは、そこにあり続けるような力強さと人の居場所を作ってくれる寛大さがあるということです。

時代は技術が発達して想像上にしかなかったフォルムやテクスチャが次々に実現可能なものになっていきます。そのなかで全てのデザインは”人“と繋がっているのだということを忘れないでいたいですし、それが相対的に重要性を増していくような気がします。

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