地形的うねりを造るガジュマルの着想「衛武営国家芸術文化中心(National Kaohsiung Center for the Arts-Weiwuying)」

建築

はじめに「生まれ変わった歴史的敷地」

衛武營國家藝術文化中心は台湾の高雄市にあります。2018年の10月にオープンしたので、オープンの2か月後に訪れることとなりました。

設計はオランダの建築事務所メカノー(Mecanoo architect)です。最寄りのMRT衛武營駅を降りるとすぐ近くにこの湾曲した地形的な建物はあります。

衛武營都会公園という大きな公園に面して建つため、周囲は非常に開放的です。またこの場所は以前は軍用地であったという歴史を持っていて、日本統治時代には軍用倉庫として使われていました。その場所が現代的な風を伴って新たな公共施設へと生まれ変わりました。

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全方位型アプローチ

この建物を水平投影すると四角形になっていて、その全方面から建物内にアクセスすることができます。大通り側からも広場を介してセットバックされているため圧迫感が抑えられています。この全方位型アプローチにより市民の日常に根ざす立ち位置を示しているように思います。

地形的うねりが造る半屋外空間「バンヤン・プラザ」

曲面を多用した地形的な形態が特徴的ですが、これはガジュマル(Chinese Banyan)の木をイメージして作られているそうです。樹木が地面から生え、樹冠が合わさって屋根(庇)を作っているガジュマルの様子が現れています。

地上から坂を登ってアクセスできる建物の2階部分には半屋外広場としてバンヤン・プラザが設けられています。そこは森の中を歩くような平らではない床や3次元的に変化する壁と天井に囲われた空間は自然が生んだ洞窟のようでもあります。

面白いのがこの建物が鉄骨造で、表面に鋼板が使われているのですが継ぎ目が顕著に現れてきています。どうしても比較してしまうのが、同じ台湾にあって伊東豊雄さんの設計した台中国家歌劇院です。こちらも地形的というか有機的なのですが、台中はRCでできているためこちらの方がシームレスで表面が滑らかなのです。

比較すると台中は箱としての行き止まりがある、つまり屋内的であるのに対し、衛武營は行き止まりのない、道のようなネットワークが入り込みその広場は半屋外です。これらのどちらもそれぞれのロケーションがあっての解き方として非常に上手いなと思います。

衛武營は規模が大きいため建物の隅々を様々な用途で使えるという面白さがあります。それは道であり広場であるという上手く設計された”曖昧さ”が生んだ結果だと思います。ただ地形的具合が内部に入ると弱まってしまう点では、台中の方が面白いと思います。

バンヤン・プラザからアクセス可能な「様々なホール」

ガジュマルの木の幹となる部分に、オペラハウス・コンサートホール・プレイハウス・リサイタルホールというような大きなホールが入っています。そこに加えて、屋外劇場もあるというのがこの建物の使い方の幅を広げているように思います

屋外劇場は広い公園側に面していて、観客は緑と空という自然を背景として楽しむことができます。この階段状になった、公園からの延長軸としての屋外劇場を持っていることで芸術への敷居を低くして気軽に足を運べる構成に変化したように思います。

おわりに「ここが高雄で一番おすすめしたい場所」

高雄で一番おすすめの建物を聞かれたら、この衛武營國家藝術文化中心を勧めると思います。一般開放されていてレストランやカフェなどがあり、半屋外広場のバンヤン・プラザではヨガをしに来る人がいたり、アクティビティが多様なのです。

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