はじめに「セントラルパーク前から」
今回は、ニューヨークに行った時に気になった超高層レジデンス「111 West 57th Street」について紹介したいと思います。
この建物は、とても細いビルとしても有名で、セントラルパークから見た時、その細さは周囲の建物と比べても一際目立っていました。
実はこのレジデンス、ただ豪華であるだけでなく住戸プランや構造デザインも面白いのです。
高さ435mの高級コンドミニアム
111 West 57th Streetは、セントラルパークの南側に立つ高級コンドミニアムです。その高さは、真下から見上げた時に首がおかしくなりそうなほどでした。
構造はRC造で、高さは435m(1,428feet)、階数は地上84階、地下2階となっています。48mもある鉄骨の屋上工作物が建物の上に乗っているため、より高く感じられました。
低層部分は歴史を感じる建物ですが、この部分は1925年に建てられた16階建のSteinway Buildingという建物です。その上に集合住宅が建てられているという構成になっています。
設計は、ニューヨークに拠点を置く世界的な設計事務所、SHoP Architectsが担当しています。
建物は全面ガラス張りかと思いきや、東西方向は開口が絞られ、そこには外装材として艶出しテラコッタが使われています。
ラグジュアリーな共用施設
もちろん建物の中に入って見たかったですが、そんな容易には入れなかったため、内部の様子を調べてみることにしました。
共用施設としてはプールやフィットネスなど、高級レジデンスにふさわしい施設が設けられており、それらのインテリアデザインも魅力的です。そこはラグジュアリーホテルのような空間です。
超高級フロア、ペントハウス76
世界の一等地に立つ、この高級コンドミニアムにはどのような住戸が存在するのか、とても気になりました。売りに出されていた住戸を元に、紹介したいと思います。
まずは、ペントハウス(PH76)のプランです。
この住戸の特徴は、次のとおりです。
住戸概要【PH76】
間取り:4 Bed / 4.5 Bath
面積:6,512sf(604.9㎡)、テラス309sf(28.70㎡)
価格:$54,600,000(約80億円)
特徴:メゾネット住戸(2層)
共用のエレベーターを降りると、すぐ住宅内となります。共用エレベーターの前には、住戸専用の階段と住戸専用のエレベーターが更にあります。
住戸専用エレベーターまであるというのは、さすがニューヨークです。ちなみに共用階段は、面積効率の良いX階段で計画されています。
住戸は1層目がくつろぎや食事、接待のフロアで、2層目が寝室のあるプライベートなフロアとなっています。セントラルパークが目の前に広がり、非常に爽快な風景を部屋から望むことができます。
やはり、セントラルパークの景色というのは特別なものなので、バスルームからも見えるように設計されています。ラグジュアリー感が極まりないです。
また、住戸内には南側にテラスが設けられています。外観上、南側はセットバック形状になっており、その部分がテラスとなっています。
ワンフロアが丸々屋外となっている50階住戸
先ほどペントハウスを紹介しましたが、50階の住戸も面白いです。
住戸の特徴は次のとおりです。
住戸概要【50F】
間取り:3 Bed / 3.5 Bath
面積:4,492sf (417.3㎡)、テラス1,798sf(167㎡)
価格:$31,000,000(約45億円)
特徴:メゾネット住戸(2層)、ロッジア
1層目には、セントラルパークの見える北側にLDKが配置されており、反対の南側に寝室がまとまっています。完全にPP分離(PublicとPrivateの分離)されたプランです。
LDKは、アイランドキッチンがリビングの方に向いており、日本でも馴染み深い配置になっています。
3室ある寝室は、全て南側を向いており、ニューヨークの高層ビル群を望むことができます。
主寝室のバスルームは贅沢に作られています。洗面と浴槽が同一空間にあり、扉の奥にはトイレとシャワールームがあります。そこに小窓から外の光が入ってきます。
バスルームには少しでも窓があるだけで、ラグジュアリー感が増すように思います。
ここが小窓になっているのには、構造的な理由もあります。この建物は東西がRC壁となっており、南北に大開口を持つという構造計画なのです。
そのため、東西は閉ざされたファサードかと思いきや、そこにテラコッタの外装やカーテンウォールを用いることで、あくまで全体はガラススキンが基本であるように見せています。
そして、機能的にも東西が塞がれているのは強い日射を防ぐことにもなるため、機能や構造、デザインが上手く昇華された建物だと思いました。
また、この50階の住戸にはリビング内に階段があります。上がった2層目のプランを見てみると、どこかアウトドアっぽい感じがしました。
図面横に書いてある文言をよく読むと「Private Outdoor Loggia」と書かれていました。
つまり、このフロアは丸々外気に開放されているのです。
写真を見てみると、開口部にはガラス手すりがありました。フレームレスとしているため、存在感が薄いです。
開口部には、ファサードデザインの一体感を作る目的でカーテンウォールの方立があるため、写真を見るとガラス窓かと錯覚してしまいますが、開放されているのです。
細いビルを成立させる構造デザイン
111 West 57th Streetの外観の特徴は、スレンダーな建物が空に伸びていることだと思います。
実はこの建物は、構造的にも綿密に練られたものであるので、取り上げたいと思います。構造計画のポイントは大きく3つあります。
・空洞の設置
・TMDの設置
・アウトリガーの設置
それぞれ詳しく書いていきます。
まず「空洞の設置」です。この建物はかなり細長いために、風圧力や風による振動が大きくなるため、それをどう軽減するかが課題でした。そこで行われたのが、空洞を設けるということでした。
具体的には、建物内の3つのフロアで南北方向に空洞を設けています。そうすることで、建物内に風が抜けて行き、風を軽減できるのです。
そこで、先ほどの50階の住戸を思い返すと、あの住戸はワンフロアが丸々外気にさらされていました。実は50階住戸は、空洞が必要という、構造デザインをベースに出来上がった住戸だったのです。
次に「TMDの設置」です。TMDというのは、Tuned Mass Damperの略で、制振装置のことです。日本でもこの技術はよく使われます。
TMDを置くことで加速度をコントロールでき、風に対する振動を抑えることができます。この建物では800トンのTMDが屋上に置かれています。
そして最後に「アウトリガーの設置」です。この建物は、中央に大きなコンクリートのコアを持っています。
ですがそれだけでは剛性が足りません。剛性とは、曲げやねじりに対して変形しない性質のことです。
そこで設けられたのが、アウトリガーフロアです。つまり、建物の変形を抑えるために固められたフロアを作ったということです。
建物内には、全部で4つのアウトリガーフロアが設けられ、そのフロアは建物外周の四方の壁がコンクリートで塞がれています。その様子は、施工中の写真が分かりやすいので載せておきます。
ですが、ただ閉じられた空間になっているだけではありません。この建物には、10箇所の設備フロアが存在するため、設備フロアとアウトリガーの部分をまとめられるように、効果的に計画されています。
111 West 57th Streetは、そんな面白い構造デザインの特徴を持った建物だったのです。
おわりに「調査で知るユニークさ」
以上、ニューヨークの超高層レジデンス111 West 57th Streetの紹介でした。
詳しく調べてみると、ユニークな住戸プランや、構造デザインを持っている建物だと知ることができました。セントラルパークから見たその建物は、現実感が無いくらい細かったです。
[OUTLINE] 111 West 57th Street
Address |
111 W 57th St, New York, NY |
Developer |
JDS Development Group / Property Markets Group |
Architect |
|
Completed |
2021 |
URL |
※この記事では「111 West 57th Street」について、建築士の視点から紹介したいと思います。