晴耕雨読のひととき「せとうち美術館」

建築

はじめに「建物と敷地の関係を解く」

今回紹介する香川県立東山魁夷せとうち美術館の設計は、建築家の谷口吉生さんです。

モダニズムの系譜が建物の特徴となっています。モダニズムは世界どこでも共通する価値の元に建築が作られていますが、形の解き方が上手い人がより際立っているように思います。そしてダイナミックさの中に繊細さが含まれています。

建築はやっぱり簡単に解くのが一番親しみやすいです。最近は自分で問題設定をあえて難しくして解こうとするデザインの潮流があると思います。

それは建築のアートとしての側面は見え易いですが、数が多くなってくると煩く感じてきてしまいます。

コンテクストを如何に綺麗に読み解くかが大事です。何事もほどほどにというのは本当に何事にも当てはまる言葉だと思います。

あわせて読みたい”谷口吉生の作品”

・思索するための回廊と庭「鈴木大拙館」←金沢にある建築です
・軽快と重厚の双璧「法隆寺宝物館」←東京にある建築です

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アクセスが困難な場所

さて、せとうち美術館ですが、これがとてもアクセスが悪いです。需要と供給のバランスでそうなってしまったのでしょうが、バスは1日3本くらいしか最寄りの坂出駅から出ていないです。

それを補うように相乗りタクシーというものもありました。これによって1時間に一本くらいには出るようになっていましたが、それでも美術館に行く人は結構待たなくてはなりません。帰りも同様です。

行きは相乗りタクシーで向かいました。一緒に乗ったおばあちゃん二人組がとても愉快な方々で、袋詰めになっていたパンを2つ分けてくれました。

アプローチに対する建物の構え

建物は公園内に建っているため敷地は広いです。またアプローチを存分にとっているのが印象的です。そのアプローチの軸線に角度を振るようにしてエントランスが待ち構えています。

人は真正面から来られると警戒するという心理的性質がありますが、斜めを向いているからなのか誘われやすい感覚がありました。

もっとも建物は物質なので正面で待ち構えられても警戒はしませんが、印象を強くつけたいか否かによってこの「角度」の使いようがあるように思います。

スレートの外装

外装はスレートで一部RCの打ち放しです。石のテクスチャは他の要素を邪魔しにくいなと感じました。それは石がどこにでもあるという普遍性からなのでしょうか。

見入ってしまう展示

せとうち美術館は東山魁夷さんという画家の作品が展示してあります。

通常の美術館に比べてこじんまりとした印象を受けましたが、絵は一つ一つが興味深くて思わず見入ってしました。建物を見に行くつもりで行っても毎回どこも展示物は面白いです。

以前、竣工してすぐに見に行った妹島和世さんの設計したすみだ北斎美術館なんかも、富岳三十六景を見てたらいつの間にか絵に没頭していたのを思い出しました。

東山魁夷さんの作品「夕星」

東山魁夷さんの作品でいいなと思ったのが「夕星(ゆうずつ)」と言う作品です。

どうやらこの絵が生涯で最後に書いた作品らしく、それまではどこかにある風景を描いていたのですが、「夕星」は夢で見たというどこにも存在しない風景を描いていました。

山に囲まれた草原に木が4本立っていて、夜の星が優しく照らしている風景です。この心に訴えかけてくる「何か」を上手く説明できないのですが、これを分かる人がどう解釈しているのかが気になりました。

おわりに「展示を見終えてカフェで一服」

作品を見終わり、順路の最後は瀬戸内海を一望できるカフェです。カフェではコーヒーとケーキを頂きました。このカフェスペースは天井高がぐっと抑えられて、座ると程よい高さになりました。

壁をガラスで構成すれば低さは圧迫感ではなく落ち着きに変わります。外は雨が降っていましたが、そんな時は中でゆったりと過ごすのが一番です。ふと、晴耕雨読っていい言葉だなと思いました。

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