はじめに「バスで大学へ向かう」
2019年4月に北海道の函館に行ってきました。
目当ては観光名所である五稜郭、というより公立はこだて未来大学でした。2000年に開学した比較的新しい大学で、情報系の学科のみあります。設計は山本理顕さんです。
大学は横津岳の麓にあり、函館駅からバスで40分ほどで着きます。徐々に大学生たちがバスに乗り込んできて、大学専用バスさながらな雰囲気は気分を見学から通学へと矯正させられるようなものでした。
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ガラスの箱、プレキャストの構造
バス停を降りると、広大な土地にガラスの箱が自然の一部を借りるようにどっしりと構えていました。この建物は文字通り”箱”なのです。
100m×120mの平面で高さ20mのワンボックスの建物になっています。ファサードの大きなガラススクリーンは函館市街に向けて構えられています。
建物構造は工期が短いということもあり、プレキャストコンクリートが使われていて、12.6mの柱間で林立しています。
地上5階の高さを持つ950mm角のその柱は細く見え、その細さは山本理顕さんの想像以上であったそうです。
さらには床の厚み、躯体のボリュームを少なくするためにダブルTやトリプルTのスラブが使われていることも特徴的です。
構造設計は木村俊彦さんの事務所が担当し、在来RCよりコストが高くなってしまうPCの総ボリュームをいかに小さくするかという検討の結果がこのスラブにも表れています。
そして最上階天井のダブルT、トリプルTには開口が設けられていて、トップライトが入ってくるようになっています。
その天井の梁の方向性は山本理顕さんがこだわったところで、奥行きや一体性を感じさせるようなものになっていました。
雛壇状のワンルーム空間
面白いのが、この大学の諸室はほとんどこの直方体の箱の中に納まっているというところです。
函館市街を望めるガラススクリーン側のエントランスから入ると雛壇状にオープンスペースや研究室が配置されています。
朝一で見学に行ったため、その時は人が少なく静かな環境でした。
それが時間が経つにつれだんだんと学生が集まりだしてきて、コミュニケーションが始まり徐々に賑やかな環境に変わっていくのを体験しました。
ワンルームであるため、点々と発される個別の音などが全体へと伝播していき、共有されます。
オープンスペースには友達同士でテーブルを取り囲んでいる様子や、雛壇越しに「おはよう」とコミュニケーションを取っている様子も見受けられました。
人の関わりをワンルームという空間を作ることで助長しており、またそれが孤立した人を生まないようにも感じ、非常に上手い設計だと思いました。
教育そのもののあり方を変える
雛壇状のワンルームから奥へと繋がる廊下を進むと教室があります。その教室は廊下から丸見えのガラス張りの壁になっているのです。
そのため、廊下から教室の更に向こう側の教室までも視線が抜けるのです。どこにいても人の活動の様子が目に入ってくるようになっています。
そのオープンな作りは大学のソフト面の特色にもなっていて、授業を行なっている時でも気になったら誰でも途中参加ができるようになっているのです。
また、1階部分には浅いピットがいくつか設けられていて、そこはプレゼンテーションスペースとなっています。
もちろんそこで何かが行われていれば、ワンルームの雛壇からはその様子が視界に入ってきますし、それが参加のしやすさにも繋がってくるのだと思います。
従来の型式に当てはまらない自由度の高い大学であると思いました。
お気に入りの場所「Delta Vista」
少し大学内のオープンスペースを借りてパソコン作業をしようと思い、場所を探していると、お気に入りの場所が見つかりました。
そこはワンルームの空間に三角形の板が浮遊するように飛び出ていて、眺望もよく、少し特別感がありました。「Delta Vista」と名付けられたスペースです。
椅子に座れば外の景色も良く見えますし、下の方で活動する人の様子も目に入ってきます。
また教室の前に徐々に人が集まりだしてきて、そろそろ授業なのだなと感じられたり、視線が通るということの重要さをそこで実感しました。
おわりに
公立はこだて未来大学は、ワンルームという環境が学生達の集う場所としてマッチした回答であると思いました。それはコミュニケーションを自然に発生させてくれる場所であり、通いたくなるくらいでした。
山本理顕さんは埼玉県立大学も設計しており、そちらもプレキャストコンクリートという共通点もある中で、どのように作られているのかということを今度見学してこようと思います。