建築が繋ぎ、運ぶ場所の記憶「エストニア国立博物館(Estonian National Museum)」

建築

はじめに「エストニアへ行く決意」

エストニア国立博物館は1909年に設立されましたが、第二次世界大戦の時期に損傷を受けていたことなどから、2005年に新博物館としてコンペにかけられ2016年に開館しました。国立の美術館が新しく作られることは多々あるようですが、博物館が新しく作られるというのは稀なようです。

そして当時無名に近い日本人建築家らがコンペに勝利したということで話題になりました。その人たちの名はDan Dorell, Lina Ghotmeh, 田根剛さんです。その”田根剛”という建築家はもう既に一般の人でも知っているくらいなのではないでしょうか。

以前、2018年10月から12月にかけて東京の2会場で個展が開かれました(個展の記事はこちら)。その展示でもやはり目を引くのはこのエストニア国立博物館です。それを見てエストニアに興味を抱き始め、行くことを決心しました。

〜Memo〜
エストニアはバルト海の東側に位置するバルト三国(エストニア,ラトビア,リトアニア)の一国です。
またIT国家でもあり、日本にいながらエストニアの電子国民となって法人設立や銀行口座設立などを行えるようです。

高まる期待感

巨大な模型や設計の考えを展示として見て知っているので、実物はどんな印象を与えてくれるのだろうという期待がありました。タリン駅からタクシーで向かったのですが、車窓から建物を発見した時には思わず感嘆しました。

全体を捉えやすい形だけに、直線的に空に向かって伸びていくようなエントランスの鋭さと透明感のあるガラスのスキンはシンプルに大自然に調和する壮観な景色でした。

徐々に近づいていく時には方向性を持ったエントランスのくぼみが迎え入れてくれるようでした。コンペの時に他にどのような案があったのかは分かりませんが 、この案が選ばれたことに納得しました。

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果てなく続く”線”

田根さんは設計を行う際に”考古学的アプローチ”と呼ぶ設計過程を取り入れています。それはつまりその場所にある、或いは眠っている記憶を建築を通して未来に伝えていこうというものです。

この建物においてそれは旧ソ連の軍用滑走路です。エストニアは旧ソ連の統治時代があり、この敷地には軍用滑走路が残っていました。旧ソ連から独立したエストニアにとって滑走路は負の遺産ではありますが、その歴史は重要なものです。

滑走路

なので田根さんはその滑走路の軸線上に更にその軸を伸ばすような細長い建物を作ることによって、記憶をつなぐ設計をしました。また滑走路のフラットなレベルから徐々に空に向かう勾配がつけられていて、これは歴史と記憶の時間軸をも象徴しているのだと思います。

建物が物理的、或いは都市計画的軸のみを取り入れるのはそこまで難しいことではないですが、時間軸をも設計したこのエストニア国立博物館は本当に素晴らしいです。

ゾーニング

平面は縦長の長方形をしていて、そこをブロックで分割してゾーニングしています。1階は天井高14mのエントランスホールから反対側(滑走路側)のエントランスの天井高3.5mにかけて勾配が付いています。

エントランスホールから受付、レストラン、ショップなどが高い天井で設けられていて、2つの大きなヴォイドもあります。

建物内に入るとヴォイド越しの光が中を十分に明るくしているのが分かります。中央の両側がヴォイドになっているので、両側から光が入り込みます。また2階も設けられていて、例えば図書室は1階から2階へと繋がり、 その2階部分は大きな開口を持つ読書スペースでした。

建物中央は直線に伸びる常設の展示スペースや、企画展示、地下の展示へと繋がる入口があります。常設展示に入ると反対側のエントランスから入る光見えるので、建物内にも直線軸が貫いていることが分かります。

その常設展示を抜けた側にはもう一つの受付とカフェがありました。カフェからは滑走路の向こう側を望むことができます。直線に伸びる何でもない景色ですが、なんだかずっと見ていられるような景色でした。

展示方式と工夫

常設展示はエストニアの歴史を紹介しています。その展示の見せ方も別の部屋に繋げたり、穴を潜ったりと多種の展示の仕方をしています。とても興味深かったのが、展示物の説明板です。

説明はエストニア語で書いてあるのですが、受付で受け取ったカードをかざすと画面が英語に切り替わるのです。他の言語にも対応しているようで、説明板にいくつもの言語を書く必要がなく、面積を小さくすることが出来て革新的でした。

他にも同じような方法を取っている博物館等があるかもしれませんが、自分がこれまで見てきた中では初めての体験でした。

まとめ「概念を形にする」

エストニアは日本からは遠いですが、そんな地で日本人建築家が作ったものがその国の重要なシンボルとなっていることに感心しました。

また北欧なので冬はとことん寒いというコンテクストは、建物内でのアクティビティがより重視されます。そこでどんな時間を過ごすのかという点でです。

そんな内部での活動も例えばガラス越しに見える外の風景の移ろいや変化を取り込むことで居場所の多様性を生みます。

建築は概念です。概念の設計の抽象性を形に落とす時に今回使われたのが”記憶”なのでした。いずれまた来ようと思います。気になった方は是非足を運んでみることを強くお勧めします。

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〜余談「IT国家が作ったTaxify」〜

博物館は駅から徒歩45分、バスだと便が良くなく30分くらいかかるのですが、タクシーは10分だったので、物価もそれほど高くないためタクシーを利用してみました。

行きは駅前の付け待ちのタクシーに乗ったのですが、帰りは流しのタクシーもいなさそうなのでどうしようかと考えていたところGoogle mapに”Taxify”の文字を発見しました。このTaxifyはUberと同じようなタクシー配送アプリで、エストニアで開発されたらしいのです。

アプリをインストールし早速使ってみることにしました。使用方法は非常に簡単で、更に「タクシーの現在地が分かる」、「目的地をスマホで指定するためドライバーとデジタルで共有される」、「費用が乗る前に分かる」というのは利用者(特に旅行者)の負担を軽くしてくれるものだと思います。

このTaxifyを始めて乗る前にアプリ内でpromo code(アプリ利用者からの招待のようなもの)を入力すると、初回のみ5€まで無料になるらしく、先に知っておけばよかったです。もし始めて利用する際は「UPK9M」を入力してみてください(他の既存ユーザーのコードでも大丈夫です)。

Tartu駅とエストニア国立博物館の間はTaxifyでは4.5€と表示されたので、片道分無料になるはずです。行きの付け待ちのタクシーは6.5€だったのでTaxifyの方が安かったです。

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