自由曲面を内包する多層多質な箱「台中国家歌劇院」

建築

はじめに

台中国家歌劇院(National Taichung Theater)は台湾の台中市(Taichung City)にあります。台中には初めて行きました。設計は伊東豊雄さんです。

伊東さんの建築デザインは古くならないという印象があります。歌劇院もオリジナル性が衰えることはないように思えます。それは思考がビルディングタイプにしっかりと嵌め込まれているからなのだろうと思います。

建物までの道のり

台中の市街地へは台北からHSR(High Speed Rail)という高速鉄道で行き、そこでMSRという電車に乗り換えて臺中駅に行きます。台中と臺中はどちらも発音が同じ(Taichung)でややこしいですが、観光のメインとなるのは臺中の方です。臺中駅から歌劇院までは6kmあるのでバスでのアクセスが普通かと思います。

しかし今回は台中の街を見ることも兼ねて歩いて行きました。街の比較対象はどうしても日本になってしまうのですが、歩くことで違いをたくさん見つけることができました。

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歌劇院周辺は急激に近代的市街化が見られてくるので街の雰囲気がぐっと変わります。むしろ自分は今どこに来ているのだろうと錯覚に陥るくらいです。

市政公園という十字の軸線を持つ公園の一端に歌劇院はあります。臺中市政府と臺中市議会の箱型の外郭を持つ建物が直線上に相対していて、歌劇院はそれに直交して、これもまた外郭が直方体なのです。

建築の写真集では建物単体としての写真が主ですが、都市スケールの気づきは実際に建物に近づいていく過程を作ることで得られます。建築計画はこの「軸線と外郭」も含まれて設計されていると思うので感嘆させられます。

有機的な建物形態

形態を一言で表すと「サンゴ礁を箱に閉じ込めているような建物」です。内部に入り込む部分はガラスやバルコニーとして処理されています。また箱型の外郭のエッジは屋上で部分的に切りとられています。

構造はRCのシェルで作られていて、構造表現が意匠表現と繋がっている建物というのは唯一無二の良さが現れてきます。柱梁の建物に化粧として有機的らしき動きを付ける建物もよく見られますが、それは素形に魅力がないことを暗示しているということでもあると思っています。

不規則な変化の体験

建設中の写真を見てからすごく完成後が気になっていましたのでようやく見られました。建物内に入ると天井から壁まで有機的でランダムな質の空間が出来上がっていてわくわくしました。

高さが変わり、広さが変わるため空間の伸縮が感じられ、先の空間がまた今いる場所とは異なるため刻々と変化が楽しめます。

カーペット敷きの階段で上階に行くと見覚えのある散らばる丸窓があり、座・高円寺を思い出しました。2階は横幅より縦幅の方が大きいので樹木が林立しているような空間でした。

5階へと一気に上がる階段は壁に沿って付いているのですが、他の部分に見られる曲面が階段では角ばっていたのが少し残念でした。しかし吹き抜けと一体した階段は建物の上下方向と内外を密接に繋げるのに非常に寄与していました。

1階・2階を見て気になっていたのが、「施工中の写真だと床も平坦でなく山谷があったのにそれがなくなってしまった?」ということでした。

しかしそれは杞憂だったようです。5階がまさに山谷のある床で、白塗りだからなのか視覚では察知しにくいのですが、足が微妙な勾配を感じ取ります。近くで歩いていた人は「あれっ?」という顔をしながら足元を見ていました。

子供はこういう上がり下がりがあると遊びたくなるのだと思います。そこには「Don’t clime」と書いてありましたが、実際に走って登ろうとしていた子もいたくらい体が疼く床です。

そういえば村野さんの日生劇場にもこういう床はあったのを思い出しました。他にもトイレの中まで曲面の壁が迫ってきたり、外に出られる穴があったり変化に富んでいます。

形態の侵食する屋上庭園

屋上にも出ることが出来ます。屋上にはフジツボが沢山あり、その間を練って散策を楽しめます。白に塗られたフジツボに混じって灰色に塗られたフライタワーと思しき箱があります。機能的なフライタワーはしっかりと外からは見えないという訳ではないのですが、背景と化していてかなり存在感はなかったです。

おわりに

敷地を一周してみると片隅に施工検証のモックアップがありました。素形からして魅力的です。ホールは残念ながら見られませんでしたが、それは次に訪れる時の楽しみとすることにします。

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