回遊性とシークエンスのある内部構成「富山県美術館」

建築

はじめに「新たな美術館へ」

20194月に富山県に行ってきました。

富山県美術館2017年に開館した美術館で、設計は内藤廣さんです。開館当時からずっと行きたいと思っていました。

この富山県美術館が開館するということは、前川國男さんの設計した富山県立近代美術館が閉館するということでもあり、それは少し悲しくもありました。

富山県美術館は2016年の富山県立近代美術館の閉館にあたって2013年にコンペが行われたのです。

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環水公園西側の敷地、前後のアプローチ

環水公園(橋の奥に美術館、右手に片流れ屋根のスタバ)

富山県には環水公園という、仙田満さんが設計した観光名所があります。

その環水公園にはスターバックスがあるのですが、そこは国内有数の美しいスターバックスとして有名なのでそこも観光名所になりつつあります。

富山県美術館はその公園の西側に位置しており、文化・環境的な一体のエリアを形作る建物の一つとして存在しています。

美術館背面

公園側からのアプローチがメインですが、その背後とも言える反対側からのアプローチも面白いのでおすすめです。

そこは小さな丘のように盛土がされていて、頂上には背を向けた熊(三沢厚彦さんの作品)がいるのです。

内部の見学前に建物周りを見ておくと位置関係やボリューム感を相互で捉えやすくなるので、見学前の個人的な作法としています。

アルミとガラスと杉

建物は地上3階建の鉄骨造(一部SRC)で、外装はアルミとガラスがメインで使われています。アルミは富山県の主産業です

アルミは外装にも内装(天井部分)にも使われているのですが、これらは全て特注のスパンドレル(ビスが表面に出ないように成形された金属化粧板)です。

内部の天井で貼られているアルミは空間内におけるそのもの自体の存在感を和らげ、床に使われる木材(ナラ)の色や外から入ってくる自然光を淡く反射したりしており、上手く使うとこのように中性的な素材になるのだなと思わされました。

また階段手すり・支柱にもアルミは使われているのですが、ここではアルミキャストとして素地のまま無塗装で仕上がっています。

そしてガラスは環水公園側に大きく一面に貼られていて、2.3階の吹き抜け空間は公園側の眺望、そして開放感に富んでいます。

天気が良いと遠くに立山連峰の山々が見えるのですが、あいにく雪が降っていたのでその景色は見ることはできませんでした。

雪の降るような寒い外部の景色を建物内から見ていると北欧に行った時を思い出し、建物の空間をその中で営まれる行為を想像しながら設計する重要性を感じます。

エントランスのオーバーハングした部分の天井や内部には富山県産の氷見里山杉が使われており、それを小幅板で使っているところに内藤廣さんらしさを感じてきます。

美術館の特徴の一つに長い直線廊下があるのですが、そこも木材によって包まれながら歩いていくと、展示室とは分離したゆったりとした時間の流れを感じました。

直線廊下と回遊的内部構成

先述した長い直線廊下は美術館の両端を繋いでいたり、展示室への入り口へと続いていますが、それらと組み合わさった順路としての廊下にとても感動しました。

美術館はその展示としての用途から一筆書きの順路が来館者を誘導する点において望ましいですが、富山県美術館はそれに付随する(階段による)アップダウンのある立体的回遊性と、外部とのシークエンスが非常に上手作られているなと思いました。

それらがそれぞれ密度的に異なった空間であるので、開けたところ、狭まったところ、囲われたところ、それらに素材や光などが織り混ざった歩く楽しさがありました。

建物内の印象を整えるピクトグラム

トイレ前に並べられたピクトグラム

行った時は「わたしはどこにいる?道標(サイン)をめぐるアートとデザイン」展(2019.3.9-5.19)が開催中で、建物内では必ず見かけるピクトグラムに焦点を当てられていました。

私自身、様々な国の空港などに訪れる中で、言語ではなくで一目で分かるものというのは、まさにデザインの本質だなと思っていました。

また好きなピクトグラムで、廣村正彰さんがサイン計画を行った都市型カプセルホテルのナインアワーズで使われているものがあります。

ナインアワーズも展示に含まれていましたが、清潔感を助長するような洗練されたピクトグラムは、建築との相性も大事ですし、建物内の印象を整える大事な役目を持っていると思います。

✔︎あわせて読みたい”ナインアワーズの記事”

・宿泊して体験する建築「ナインアワーズ in 東京」
・都市に開き、新たな概念を作るカプセルホテル「ナインアワーズ浅草」→現在は閉店してサウナにコンバージョンされています。

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おわりに「次回こそ屋上広場へ」

回遊性、そしてシークエンスのある順路に感動した富山県美術館でした。

建物自体の印象は強くなく、作品性よりもその建物ができることで新たに作られる空間や時間や景色の方の設計に力を入れているのだなと、この内藤廣建築に対して思いました。

天候が悪かったため、屋上にある「オノマトペの広場」には出られませんでしたが、次行った時にはそこからの立山連峰の眺めを堪能したいと思います。

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