はじめに「JR三方駅から湖の方へ向かって」
2019年4月に福井県に行ってきました。福井県の若狭町に最近できたのがこの福井県年縞博物館で、設計は内藤廣さんです。
※実は若狭町の水月湖で採取された年縞(堆積物による縞模様)が7万年以上のデータを持っていたため、それが”世界標準のものさし”になったということで建設された博物館なのです。
北陸を中心に周遊する旅を電車でしていたため、年縞博物館には最寄の三方駅で下車して向かうことにしました。
無人駅ではなかったものの、電車が過ぎると静寂が訪れ、異なる世界に漂流したような気持ちでした。
駅から住宅街を練るようにして進むと、大通りが現れ、川が現れ、さらに進むと年縞博物館がありました。
遠くの山々がくっきりと見えるのは地方の魅力のひとつです。景色を楽しみながら、建物に期待を寄せながらアクセスしました。
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近代建築の要素が心地いい建物
福井県年縞博物館は初めて建築雑誌で見たときに、純粋な形の良さを感じました。それは実際に行っても改めて感じました。
建物は地面にベタ付けに立っているのではなく、ピロティで持ち上がっているのです。ピロティはコルビュジェの提唱した「近代建築の五原則」の一つです。
角の取れた柔らかな柱、それは生き物の脚のようでもあるのですが、それを見るとコルビュジェ建築を見ている時のような歴史を感じます。
年縞博物館の端は丘に置かれていて、ピロティそのものが独立せず、地形と建物構造が協力して双方で支え合っているようにも見えます。
無理くり師匠・弟子の関係を当てはめるのであれば、コルビュジェ→吉阪隆正→内藤廣ですね。一応は遺伝子はあるのでしょうか。
伸びる軸線の先には
年縞博物館は切妻屋根の建物が一直線に伸びていますが、その延長線には三方湖、そして水月湖があります。
湖への敬意とも言えるのでしょうか、軸線は都市計画的な要素で、建物と湖の間にそれを見出すのは難しいですが、90度曲がっていたらそれはそれで気持ち悪さがあります。
そしたら湖の先にある日本海の水平線に消えていくように伸びる線が情緒的である、というのが自分なりにしっくりくる回答です。
木と金属とコンクリートそれぞれの素材が現れる
建物は1階、2階床スラブ、2階壁が鉄筋コンクリート造で、上り梁以外の小屋組が鉄骨造、そして上り梁が木造(杉集成材)です。
また屋根にはチタン亜鉛合金板(縦ハゼ葺)、外壁はガラスとガルバリウム鋼板(角波板)、天井には杉の小幅板、RCは杉板型枠の打放しなど、様々な素材が使われながらも内藤さんらしい仕上がりになっています。
特に内藤さんが多用するチタン亜鉛合金板は風景を邪魔しないように思うので、いい素材だなと思います。
構造的に処理されたスパンの展示空間
2階にある7万年の年縞を展示した壁は45mもの直線になっています。
その壁によって縦長の空間が長軸方向に2分割され、その年縞を見る側と水月湖や年縞に関連した地球環境について学ぶ側に分かれています。
前者は展示を見るための幅をそれほど必要としませんが、後者はある程度幅を必要とします。
そのため2分割する壁は年縞を見る側に偏心しているのですが、その偏心した壁の上に左右で長さの異なるスチールの構造体が乗っています。
内藤さんは初めはスチールの部分も木でやろうと考えていたらしいのですが、それだと部材が太くなってしまうということで、適材適所に素材を使い分けることにしたようです。
隣にも素晴らしい建築物を発見
この福井県年縞博物館の隣には横内敏人さんの設計した若狭三方縄文博物館があります。
そちらは丘の中に建物が埋められたような外観で、大きな煙突のような筒がいくつも地上に出てきています。
それらは内部に光を届けるトップライトにもなっているのですが、頂部には見覚えのある樋がついているのです。
RCで作られたその樋は、コルビュジェがよく使っていたディテールです。
外観からして面白そうだなと思っていたのですが、内観も自分の内側にある探究心を呼び起こされるような空間が広がっていました。
そこは神殿のような厳かな精神的規律を重んぜられる洞窟のようでした。
年縞博物館との合わせたチケットが販売されているので、行く際はどちらも見ることを強くお勧めしたいです。どちらも違った良さがあります。
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おわりに「次こそはカフェに」
年縞博物館の湖側の先端にはカフェが入っていて、そこから景色を見ながら過ごすのがすごく気持ちの良さそうだったのですが、時間が無く行くことができませんでした。
次回こそは必ず行こうと心に決めました。建物の良さは長く滞在することで徐々に気がついていくものだと思っています。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。