人間を健康にするガウディの集合住宅「カサ・ミラ(Casa Milà)」

建築

はじめに

2019年1月にバルセロナに行ってきました。

バルセロナといえば世界遺産に登録されているアントニ・ガウディの作品がたくさんある場所です。その中の一つ、カサ・ミラを紹介したいと思います。

カサ・ミラは実業家のペレ・ミラ夫婦のための邸宅で、カサ(Casa)とはスペイン語で「家」という意味です。外観は周囲の建物とフロアや建物の高さが揃いながらも曲線が固有のリズムを作り出しています。

その外観に見られる波打つような曲線は地中海をイメージしたもののようです。そしてファサードはカタルーニャ地方近辺の3つの場所から取れた地産の石を使ってできています。

※観光客が多く訪れる場所なので、見学する際は公式サイトでオンラインチケットを買っておくと円滑に入場できます。

吹抜けの中庭

建物内には吹抜けになった中庭が2つあります。その吹抜けに面して窓が一周設けられています。この吹抜けに面して居室が設けられているのかと思いましたが、後にここには廊下が面していることが分かりました。

ここに居室があるとスラムのような圧迫感があるのではないかと思っていたため、廊下であると知り、それによって中庭から窓を通して外に抜けていくような空気の流れが感じられました。

そして当時この中庭には車が入れるようになっており、スロープを通り下階にあるガレージに車を停めることができるようになっていました。

階段を上る途中で見るデザイン

見学ルートとしてはまず屋上に上がり、そこから下っていくようになっています。屋上まではエレベータもしくは階段に分かれていたので、躊躇なしに階段で上がります。階段はディテールが多く見られる場所でもあります。

天井の仕上げに直線の要素がなく流動的であるのはガウディらしく、また手すりと欄干のデザインも見られます。細い鉄板を折ったり拗らせたりした欄干から連続的な装飾性を感じられます。

また踊り場には住戸の玄関ドアも見られます。その玄関ドアにはガウディらしい把手や、訪問者を見るための小窓が設けられています。

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バルセロナを一望できる屋上

階段で屋上まで登ると、そこは別世界に来たような有機的建造物の美しさと外の街並みが遠近で混ざり合うような景色を見ることができます。

大きな吹抜けを見下ろしたり、起伏のある屋上の散歩を楽しんだり、遠くにあるサグラダ・ファミリアを発見したりと屋上体験のバラエティに富んでいます。

彫刻のような突起物の役割

屋上を見渡すと彫刻的な突起がいくつもあります。これらは機能的な中身を装飾で覆い隠したものになります。実はこれらは階段、換気、煙突の塔屋になっているのです。

大きな塔が階段で、小さなものが換気、煙突になっています。このようにすることで設備の無機質さがもつ排他的印象を軽減することができます。露出した設備に触れてみたいと思うことは少ないのですが、この彫刻には触れてみたくなりました。

カテナリーアーチの屋根裏部屋

景色も良く清々しい気分になれる屋上を後にし、下の階へと足を運びます。そこは屋根裏部屋で、レンガ造のカテナリーアーチが露出した空間となっています。

カテナリー曲線の理論模型

「カテナリー」とは懸垂線のことで、一本の糸の両側を持ち、垂らしたときにできる曲線のことです(写真のような形です)。この形は非常に合理的なもので、構造的に考えた時にスラスト(推力)というアーチを外に広げようとする力を無くすことができるという利点があります。

通常のアーチだと外側に力が働くので固定するためのバットレス(控え壁)が必要なのです。さらにカテナリーアーチは軽量かつ建設が容易という利点を持っています。

太さの異なるリブ

またカテナリーアーチ間を繋ぐリブを見てみるとレンガの厚みが場所によって異なることが見て分かります。そうやって力の流れる構造線を目で追ってみるのも楽しいです。

屋根裏を作る利点は屋根からの輻射熱を抑えることにあります。屋上の下がそのまま居室だと、 日光に暖められた屋上の床が室内に熱を放出するため、夏場は特に暑くなってしまうのです。なのでこうして屋根裏を作り、そしてそこを換気するというのは住環境をよくする上でとても重要なことです。

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生活の様子を伺える居住フロア

屋根裏部屋の下は居住フロアになっています。ここでは設備や家具などが置かれ、生活の様子を見ることができます。キッチン、ダイニング、リビング、浴室、子供部屋などそれぞれの部屋は外に面しています。廊下は吹抜けに面しており、丸い形状に沿って続いています。

このフロアでの見所の一つは「床材」です。用途によって使用する床材が異なっているのです。廊下には茶系の正方形タイルが使われており、子供部屋には海洋生物をイメージして描かれている黄緑色の六角形タイルが使われていました。

そして執務室はヘリンボーン柄、ダイニング・キッチンには万華鏡のような三角形の連続した柄で、寄木張りの木材が使われていました。これらの木材にはオーク、メープル、ポプラが使用されています。

おわりに

日本では見ることのできないガウディ建築に思わず唸ってしまうことが多々ありました。装飾とはここまで美しくなるのかと思えるのがガウディ建築です。奔放な装飾ではなく、建築家としての合理性を含ませた中でデザインされる装飾からは学ぶことがたくさんあります。

私の好きな言葉に「芸術と自然は人間を健康にする」という建築家、内井昭蔵さんの言葉がありますが、ガウディの建物に現れるのはまさにその言葉そのものでした。

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