コンテクストの解読「牧野富太郎記念館」

建築

弧を描く切妻形状の屋根

牧野富太郎記念館を設計したのは内藤廣さんです。

内藤さんといえば切妻屋根のイメージを持つ人が多いようです。

ご本人もそのイメージを持たれていることを自覚しているようですが、形態は重なる検討の結果であり、形態ありきで作っていないため切妻が多くなっているのはたまたまと言っていました。

ただ、日本という風土と日本人のDNAに刻まれているものが切妻屋根を安定の形態の象徴と捉えているような気がしています。

内藤さんはその扱いが上手いなと建物を見て思います。私が内藤さんの考え方に傾倒している部分が少なからずあるのも事実です。

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高知の五台山にあることの意味

それでは牧野富太郎記念館を紹介していこうと思います。

建物を建てる上で必ず考えなくてはならないのがその敷地の特性、つまり風土だと思っています。

どういう陽が当たるのか、どんな風が吹くのか、何が聴こえるか、何が見えるかというのは設計の予条件となり、構造に影響し、最終的な形態にも影響してきます。

これらを建築の中にロジックとして落とし込んでいって適正な解が出ると、これを五感で感じた人がなんだか心地よくなるのだと思います。

この抽象的な「感じ」を生み出すために設計者はいくつもの計算をもって空間に結びつけなくてはならない宿命を持っています。

この建物の用途は記念館としての展示ですが、内部空間と同じくらいある軒下の半屋外空間が特徴です。

スティールと木のハイブリッド

鋼管のキール(骨)から垂木が架かっていて、その構成がスパンによって変わるところが面白いです。

垂木のせいが変化したり、支持点が移動したり、下弦材を設けたりしています。

この建物のある五台山は風の吹上力がかかるため、屋根もその力に抵抗する機構が必要となります。

ここでは木造の集成材や鋼材を下弦材として入れて、吹上力に抵抗しています。

内藤さんはここの設計で、地震力による構造検討より、高知特有の風圧力の対処に苦心したと言っていました。

まさに場の変化による与条件の変化をダイレクトに感じました。

最近は観測史上最大級の台風が連発したりして、それは海水温の上昇でこれからも懸念されることから、「風」というのは今後さらに重要なキーワードになってくるのではないかと思います。

安心感を覚える軒下空間

全体の形態としては円弧を描いて中庭に求心的な光を集めていて、影になった軒下空間は一層落ち着きが増しています。

人間として、動物として軒下の空間とは帰巣本能が出るような安心する場所なのかもしれないと思いました。

建築の意匠を考える上で、形態を押し通すとコンテクストとのズレがどうしても生じてしまうのは街中でよく見かける事です。

しかし敷地に散らばる要素を集めて架構との調整がフィットすると、そこに生じる意匠形態は自ずからいいものになるのではないかと思いました。

おまけ〜近くにある堀部安嗣さんの設計した建物〜

もし牧野富太郎記念館に行く時は、近くにある堀部安嗣さんの設計した「竹林寺の納骨堂」も見ることをお勧めします。まさに骨をうずめたくなる空間でした。

【Map】

 

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