旅路での予期せぬ発見
その時は一本取られたというか三本くらい取られた気分でした。山口県宇部市にある渡辺翁記念会館から岩国市の錦帯橋へ向かう途中に徳山駅という駅で乗り換えがありました。
乗り換えのために空き時間が40分もあったため地方の乗り換えの長さを感じ、何していようかなと思いながら駅に着くと、電車のホームに面したガラス窓から温かみのある明かりが漏れていました。
よくよく見ると本がずらりと並んでいて図書館みたいになっています。せっかく時間があるから立ち寄ってみようと途中下車し、そちらの方に向かうと見覚えのある風景が現れました。
オレンジに塗られた壁と板張りの天井。「あれだ!」と思いました。新建築(2018年5月号)で見たことがあったのです。しかも私が尊敬する建築家、内藤廣さんの設計です。
雑誌を見たときはいずれ見に行きたいなと思っていながらも中々行く機会がないだろう場所に少し諦めがあったのかもしれないです。
そんなお預けにしていた空間体験が急に意図しないところで出現したのですから、こんなに嬉しいことはなかったです。
キョロキョロしながら長いデッキを練り歩く
歩きながら建物を見ている時はどうしても下を見たり横を見たり後ろを振り返ったりとキョロキョロしてしまいます。それはデザインを見逃すまいという思いと、頭に残したいという思いからそうなってしまいます。
この駅前図書館は北側の駅前広場に面していて、奥行きのあるデッキが開放的です。2階のデッキはキャンチレバーになっていて、そのため地上部分は庇が深くかかっていて領域化が強いです。
奥行きのあるデッキはイベントなどのアクティビティに活用できる場としても機能します。
そのデッキは樹脂製のように見えたので調べてみたところ「プラスッド」というプラスチックと木粉を混ぜて生成するものの名称のようです(フクビの子会社のリフォジュールという会社の製品です)。
まだまだ自分の知らない素材が沢山あることを実感させられます。
屋外も屋内も天井は杉小幅板の目透かし張りで、内藤さんの設計する建物にはよく見られるような気がします(例えば、とらや赤坂店はヒノキの小幅板が使われていました)。
その杉は周南市で採られたもので、ウレタンクリア塗装がされていました。
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駅舎に付加する機能
その日はあいにくの曇り空でしたが、それでも温もりある建物は急な来訪者も迎い入れてくれます。外にデッキが横一直線に伸び、手すりに寄りかかり街を眺める人たちがいました。駅前は現在大改造中で未来に向けた工事の音が聞こえてきます。
「駅周辺に人が滞留するような仕掛けがあるということがまちづくりの根幹だ」なんて思っていたところに、かなりいい先行事例を見つけた気がします。
中には図書館だけでなく蔦屋書店とカフェも入っていて、新品の本棚と貸し出しの本棚がさりげなく切り替わっていました。
この施設内で読むのであればそれは利用者にとって新品であろうと貸出本であろうと大きな違いはなく、面白そうであるかとか、そういった中身の問題のみなのだと思います。
この施設での取り組みは「本」という媒体を残し活性化するいいアイデアなのかもしれないです。
地方の図書館は新刊の出回りが遅かったり、本屋は買うだけの場所でその場で読むことは立ち読みじゃないとできなかったり、その両方の欠点を補い合ういいモデルだと思います。
図書館の持つ席数という利点を本屋に持ち出し、休日は分かりませんが行った平日は席が混み合うことがなく使われていました。
そして公共の施設であるからマナーは守りましょうといくつかの条件を掲示し、快適な利用も促されていました。もし自分の最寄りにこの施設があればほぼ毎日通うと思います。しかもここは年中無休なのです。
本と図書館が持つ性質上、中が過度にうるさくなることもないので「コーヒーを飲みながら読書」なんて時間の過ごし方がまたいいのです。
また、交流室が3階にあり、市民の活用の場の選択肢が広がります。ここは駅だけで1日過ごせる場所です。山口県に行く際は徳山駅は要チェックです。(※建物内の写真撮影は禁止でした)
・湖に向けた情緒的な軸線「福井県年縞博物館」
・日本風情の再構築「虎屋菓寮 京都一条店」
・空間から時間への変換「海の博物館」