はじめに「田根剛さんの個展へ」
東京オペラシティで開催した「田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future -Digging & Building」展に行ってきました。
展示はいくつかありましたが、個人的に気になったものだけ抽出して紹介します。
【会期】2018.10.19~12.24(終了)
【場所】東京オペラシティ アートギャラリー
建築家・田根剛とは
田根剛さんはフランスのパリに設計事務所を構え活動する建築家です。
エストニア国立博物館のコンペで田根さんのチームが最優秀賞となり、竣工したことで一気に知名度が上がったと思います。
日本ではこれまでインスタレーションなどの活動が多かったようですが、これから現在進行中のプロジェクトが徐々に竣工していって田根さんの建築物は日本中を席巻しそうです。
エストニア国立博物館
エストニア国立博物館は田根さんの代名詞と言えるのではないでしょうか。
もともと旧ソ連の軍用滑走路であったところに建設し、意味的にも物質的にも滑走路の延長上に建築を位置付けています。
そうすることでこの負の遺産でもあった場所の記憶を未来に残そうとしています。
田根さんは「Archaeological Research(考古学的リサーチ)」と名付けた自身の設計手法で、敷地にあるもの・記憶を読み取ることをメインに考えられているようです。
敷地に残る滑走路と含めてこの建物を見ることで、その連続的な作り方が物語っているものは何であるのかは設計趣旨を聞かなくても伝わってきます。
外側をガラスのスキンにしたことは建物自体の存在感を薄くするためなのではないかと思いました。
他の素材を用いるとどうしてもマッシブな印象を与えてしまうし、そのもの自体に意味と存在感が出てしまうのでガラスを使ったのだと思います。
後日、実物を見に行ってきました。この建物を見るために、初めてエストニアに行ってみました。
古墳スタジアム(新国立競技場・案)
実は当初2020東京オリンピックに向けた新国立競技場のコンペが行われた際の11案に絞られた中に、田根さんの「古墳案」があったのです。
日本の歴史を遡ると古墳時代があり、その古墳のイメージからスタジアムを山の中に埋めてしまおうという案です。当初コンペを勝ち取ったザハ・ハディドの案とは全く対照的です。
古墳案ではスタジアムの上までハイキングのごとく登ることができるようになっていて純粋に楽しそうです。
展示では模型があるのですが、下から潜るとスタジアムの中に入ることができます。
古墳案だと土の重量がかかるため、梁がかなり太くなってしまいそうです。
しかもキャンチレバーなのでスタジアムの大空間を持たせるのは結構難しいのかなと感じました。
ただその古墳案は現在進行している、代々木公園のスタジアム構想で使われているようなので、そのまま進めば2027年には古墳スタジアムが見られるそうです。
丹下健三さんの設計した代々木体育館(1964年)の隣に位置するため、次に作られるものも時代を超えて多くの人を魅了し続けるものであってほしいです。
そういえば代々木体育館の構造デザインをした坪井善勝さんは「構造の美しさは合理性の傍にある」というような言葉を残していますが、古墳スタジアムは構造の美しさというものがどう現れてくるのかが楽しみです。
10 kyoto(進行中)
10 kyotoは京都の十条で現在進行中の複合文化施設のプロジェクトです。展示ではスタディ模型がたくさん置かれていました。
特徴的なのは十字形の空間と京都の古材を集成材にして使った「古材集成材」による斜め格子のファサードです。
映像の展示で大量に廃棄される木材が工場で粉々にされている様子が映し出されていました。その廃材とされていく過程に建築が入り込んでできる建物です。
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弘前市芸術文化施設
弘前市芸術文化施設は青森県弘前市の美術館のプロジェクトです。展覧会をやった時は計画中でしたが、既に開館しています。
「吉野町煉瓦倉庫」というレンガ造の老朽化した倉庫をリノベーションするため耐震改修する必要があるのですが、ここではレンガの中にPC鋼線を通して基礎梁に緊結して補強しているため、外観に大きな改修跡が見られないのが特徴的です。
レンガというのはコンクリートのように一体化してずっしりと存在しているものではなく、小さなものでできた集合体ですから、そちらの方が人間の扱うスケールに近く親しみを感じやすいのかなと思います。
屋根は「シードル・ルーフ」と名付けられたチタンでできた金色のものです。この倉庫は元は日本初のシードル工場であったことから着想したようです。
とらやパリ店
とらやの設計といえば内藤廣さんとばかり思っていたので、田根さんがパリ店を設計したと知り驚きました。内装は角の取れた柔らかいものにしているようです。
私は「YOKAN TABLE」なるものが気に入りました。羊羹のようにダークで鈍く反射するテーブルは写真越しですが思わず触れてみたくなる質感が伝わってきます。
日本で生まれたものをフランスにある素材を使ってどう読み替えていくかというところが主眼で、これは日本もフランスも知る田根さんは適任だと思いました。
展示の後日にパリに行く機会がありましたので、このとらやパリ店も外観だけですが見てきました。アーチの開口を使うというのは西欧らしい商店デザインだと感じました。
おわりに
展示は文字を読むというよりは、模型などを実際に見て感じるスタイルでした。ざっくりと田根さんの活動を知ることができました。
順路の最後は実現されなかったコンペ案なども含めて、作品が壁一面を使って紹介されていました。
そしてこの個展のあとに見に行った、エストニア国立博物館はとても素晴らしいものでした。素晴らしさを書くと長くなるので、よかったらその記事も読んでみてください。