はじめに「平田晃久さんの設計した9h(ナインアワーズ)」
ナインアワーズは都市型のカプセルホテルとして、東京には西新宿、神田、竹橋、赤坂、浅草、蒲田にあります。
その内、竹橋、赤坂、浅草を建築家・平田晃久さんが設計をしました。
平田さんが提唱する「からまりしろ」のある建物を生で体験しようと思い、それら全てに宿泊してきました。なのでそれらの比較を踏まえながら、建築視点かつ利用者視点で紹介します。
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ナインアワーズ竹橋
敷地の特徴
ナインアワーズ竹橋は竹橋駅の近くにあります。
竹橋といえば林昌二さんの設計した”パレスサイドビル”や谷口吉郎さんの”国立近代美術館”があるところです。
ナインアワーズは大通りを1本内側に入った通りにあるためひっそりと存在しています。
また間口も狭いという都市的な敷地状況です。
建物の特徴
敷地が長方形で間口が狭いためファサードに重きを置くということよりもむしろその内側の作り方を重視しています。
建物をコの字型に配置して中庭を設けており、中庭に向けて3方を開くことで建物を一層ずつ分断するのではなく、自然と上下の繋がりを視覚的に感じられるようになっています。
中庭の一辺は隣の敷地に面しているのですが、隣の建物は横(隣地)に開くことは前提として建てられていないため、ナインアワーズ にとっての「壁」として使うことができています。
カプセルホテルのプライバシーはカプセル内で完結するので、それ以外の部分が開いていても全く問題は無いのです。
施設の特徴
竹橋は皇居の外堀近くにあるため、施設は皇居ランナーのための拠点としての使い方もできます。
もともとこのナインアワーズは1時間単位の利用やシャワーのみの利用ができるホテルなのです。
それに加えて竹橋店ではランニング用の靴を貸し出しています(ランニングウェアは貸し出していないようです)。
設備の特徴
ロッカー、シャワー、洗面所、トイレはこのホテルでは各階に設けられています(赤坂店と浅草店は一箇所にまとめて設けられています)。
同じナインアワーズといっても設備が全て一緒というわけでは無いようです。
竹橋店のシャワーは真上から浴びることのできる「オーバーヘッドシャワー」で、初めて体験しました。
真上から降ってくるということで、お湯を均等に浴びられるというメリットがあります。
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ナインアワーズ赤坂
敷地の特徴
赤坂にはTBS本社があり、高層ビルのBiz Towerがあり、その一帯は夜も煌びやかで会社員で溢れています。
余談ですが、赤坂でお気に入りのお店は赤坂御用地を望むことができる、内藤廣さんが設計した「とらや赤坂店」です。
ナインアワーズ赤坂はBiz Towerの裏に一本入ったところに位置していて、立地が非常にいいです。
高層ビルの裏手はマンションやアパートなど、住宅地が広がっていて、ナインアワーズ赤坂もそれらのボリュームに溶け込んでいます。
建物の特徴
ナインアワーズ赤坂は街に向けてカプセルの表情を出しながら、奥行きを感じられるようにガラスを使っています。
一階のエントランスにはカフェがあり、ホテルの印象のみで硬くならないよいうな工夫が感じられます。
またボリュームが周辺の建物と近く、新しい建物ながらも威圧感は少ないです。
平田さんの設計する「からまりしろ」はバルコニーとして各階に現れ、樹木が植えられています。
ここでも感じられるように、やはり樹木は建物の寂しさを補完するものであると思っています。
施設の特徴
竹橋店は1階はエントランスホールと共用スペースで、カプセルは2階以上にありましたが、赤坂店は1階からカプセルがあります。
そしてロッカーや水回りは全て地下にまとめられています。
ナインアワーズのエレベータは女性用と男性用で分けられていて、利用しない階には止まらないようになっている、というのが利用者に明快でトラブルもなさそうな計画だと思いました。
設備の特徴
赤坂店は竹橋店と異なり、ロッカーと水回りが地下にまとめられているため、その部分は広く作られています。
ロッカーは縦長で、洗面の鏡は一面張り、シャワー室の荷物台は広めで壁タイルは白で、シャワーは一般的なものです。
しかしなぜかカランが天井からのオーバーヘッドシャワー的になっていました。竹橋店と異なっている店も面白いです。
ナインアワーズ 浅草
浅草店については詳しくは別記事にて紹介しています。
敷地の特徴
ナインアワーズ浅草は浅草寺の西側、TX浅草駅側にあります。
日本中の名産を買うことのできる”まるごとにっぽん”の裏手にあります。
浅草寺一帯のエリアは車の侵入を制限しているため、広い道を安心して歩くことができます。
観光地ではやはり、目線が様々な場所に飛んでいくので、人にとって使いやすいまちづくりをする必要があります。
浅草は日中は観光客で賑わっている場所ですが、仲見世などが閉まるのが早いため、夜は観光客が減り、意外と穴場だったりします。
建築では隈研吾さんの設計した”浅草文化観光センター”があります。
建物の特徴
建物は9階建で、宿泊の受付は9階にあります。
角地に立つため街に向けて建物の表情を2面見せることになり、屋外階段が「からまりしろ」を作っています。
屋外階段が鉛直に落ちるのではなくて建物外周を内部シーンを絡み取りながら繋げています。
施設の特徴
ナインアワーズではこの浅草店が自分のお気に入りです。
浅草店は1.2階にカフェが併設しているのと、宿泊者が利用できるデスクやラウンジ、ジム、温室が備わっているので、他のナインアワーズよりも建物内の滞在時間を長くできます。
言い換えればアクティビティが豊富ということです。
ナインアワーズは「1時間で汗を流し、7時間眠り、1時間で身支度をする」という、想定される計9時間の利用をコンセプトにした施設ですが、浅草店はもっと長く滞在したくなってしまいます。
設備の特徴
浅草店の特徴として、シャワー室でバリアフリーに対応したところもありました。
一点、動線計画の問題点として、ロッカーに挟まれる狭い通路を通らなければ洗面、トイレ、シャワー室に行けないというのがありました。
一見問題なさそうですが、ロッカー前で支度をしている人がいると、その人に道を開けてもらわないと奥に進めないのです。
おわりに「潔癖化は現代病?」
ナインアワーズの口コミを見ていると、話し声が気になるとかゴミが散乱しているとか、ロッカーが狭いとか、そういった書き込みが結構見られました。
確かにそういう部分は自分も気にならないわけでは無いですが、近代化は人の潔癖化を進行させるものなのかもしれません。
清潔であるに越したことは無いですが、自分もかかっているであろうこの現代病は不可逆的で、今後が危惧されます。
総評として、ナインアワーズはどれも非常に快適なホテルで、また是非とも泊まりたいと思っています。
平田晃久さんは新大阪店も設計しているので、大阪に行く際はそちらにも泊まってみようと思います。