はじめに
2019年4月に静岡県富士山世界遺産センターへ行ってきました。
静岡県富士宮市に位置し、2017年に開館した建物です。
設計は坂茂さんで、坂さんの作品は国内だと大分県立美術館、成蹊大学の図書館、スイデンテラスなどがあります。
国外だとフランスのポンピドゥーセンター・メスやラ・セーヌ・ミュージカルが有名です。
坂さんは木格子を多用する印象があり、またこの富士山世界遺産センターではポンピドゥーセンター・メスと同様、風景を切り取る”ボックス”が設けられていることが特徴です。
富士山の麓の逆さ富士建築
建物は鉄骨造ですが、ファサードには木格子が現れています。
その木材は静岡県産のもので、地面から上部に行くに従って大きくなるような逆三角形断面の”逆さ富士”の形態をなしています。
その手前には水盤が張られていて、風が吹いていなければ逆さ富士がその水面に映り、逆さ富士が反転した”純”富士山型が見られるようになっています。
富士山のための施設ということで建物形態にその形が表されているのは直喩的であり、また格子という素材で細かく形成する点においては暗喩的でもあり、その構成のバロメータが心地いいです。
外に張られている水盤は地下水を利用したもので、空調の熱源にも使われています。
風景という演出かつ、機能的であるという両義性を持っているのは優れた環境デザインだなと感じました。
逆さ富士の中身
富士山を紹介する為の施設であるので、当然展示空間が存在するわけですが、逆さ富士の形態は体験的に学習するためにも一躍買っています。
というのも逆さ富士の中に入ると、スロープで螺旋状に登り、その途中に壁に映し出されるタイムラプス映像や展示スペースがあるのです。
富士登山のような体験を作り出しているのは”何のための建物であるのか”という点で非常に上手い設計だなと思いつつも、外観とは反対に急に無機的な空間になっているのは少し勿体無いように感じました。
木材や石材のテクスチャーなりが存在しても良かったのではないかと思いました。
ですが富士登山をしたことのある身として、懐かしさを感じる映像を見ながら歩いている時間は記憶の中を巡る貴重な時間になりました。
ボックスによる風景の切り取り
山頂(最上階)に辿り着くとそこは富士山を展望するスペースが現れます。
その空間はボックス形状になっており、富士山を切り取るピクチャフレームになっています。
そのまま屋外テラスに出ることも出来ますが、外から見る富士山は言わば一定の範囲内であればどこでも見られます。
重要なのはその建物でしか得られない風景が作り出されているという点で、ここでは屋内から見る富士山の演出がされています。
そこに置いてあるソファは逆さ富士形状で、床材は反射する素材になっています。
それらをまとめて目に収めると、この場所唯一の富士山を見ることができます。
館員の方のおすすめは床にカメラを置いて撮る方法ということで、そのように撮ってみると綺麗な写真になりました。
余剰空間
外観は逆さ富士が強烈な印象を与えますが、建物の構成はガラス張りのボックス+逆さ富士になっています。
そのガラス張りのボックスは言わば主要展示をする逆さ富士の余剰空間ということになります。
そこは吹き抜けで各空間が繋がっており、一階にはショップ・カフェ、二階には映像シアター、三階には屋外展示などがあります。
動線の重なりは結構あり、混んでいる際はそれぞれの展示を見ていくのが大変そうだなと感じながらも、行ったのが平日の閉館間際でしたのでスムーズな見学ができました。
おわりに
坂茂さんの建築作品はあまり見たことがありませんでしたが、この富士山世界遺産センターはその容態に上手く合致した設計だなと思いました。
この日見た富士山は山頂に雲がかかっていましたが、館員の方曰く、それは太平洋側からの水蒸気がそこで溜まっているためということでした。
また朝の方が雲がかかりにくく、行かれる際は開館早くがおすすめとのことでした。