はじめに「建物を8つに厳選」
これまで国内外の建物を多く見てきましたので、一旦まとめて捉えてみようと思い立ちました。
自分にとって影響を受けたものはどの建物であったか、記憶を遡りながら考えてみました。
今回は国内を対象に、自分に良い影響を与えてくれた、そして人におすすめしたいものとして厳選された8つの建物を挙げました。
それらは見てからある程度時間が経過しているものの中から選びました。
というのも、最近見たもので感銘を受けて心に残っているものはそれが新鮮さが故であるのか、本来の影響であるのかがまだ分からないからです。
それでは紹介していきます。
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日生劇場
日生劇場は村野藤吾さんが設計しました。日比谷にある帝国ホテルの道路を挟んだ向かいにあり、旧帝国ホテルがあったときから日生劇場は存在しています。
ここでは定期的に建物見学会が行われており、事前に申し込んで見に行ったのですが、村野さんの細部までのこだわりが詰め込まれた建物だということがひしひしと伝わってきました。
アコヤ貝が貼られ、生き物の胎内にいるかのような大ホールは一段と魅力のある空間になっています。
詳しくは下記にて紹介しています。
海の博物館
海の博物館は内藤廣さんが設計しました。三重県の鳥羽にあり、しかも非常にアクセスしにくい海側にあります。
ですがそこに行く価値は計り知れないものです。ここで出会う建築、自然の融合体が纏う空気感はこのロケーションでこそのものです。
そして内藤さんの建築に対する考え方が実直に現れてもいます。
それは建築が置かれる時間に対してどう向き合うかということで、言葉だけでは想像に及ばないくらい五感に伝わってくる空間となっています。
東京カテドラル聖マリア大聖堂
東京カテドラル聖マリア大聖堂は丹下健三さんが設計しました。HPシェルの構造の隙間から光が差し込んでくる内部は、全体が教会という厳粛さを伴うべき場所に相応しいです。
瞬間的に感じたのはそこが小宇宙のようであるということです。ある一定の秩序を保って構築的に広がっていく世界は、ここでこそ見られるものだと思います。
東京にいても立ち寄る機会が少ない場所にありますが、定期的に見に行き感じるべき建物だと思います。
伊丹十三記念館
伊丹十三記念館は中村好文さんが設計しました。愛媛県の松山にあります。
好文さんは住宅の設計がほとんどなので、ここは一般の人でも中に入れる貴重な建物です(museum as it isもおすすめです)。
やはりこの記念館も住宅のスケールで設計されています。
そこに小気味良いカラクリが仕込まれていて、展示を見る人を退屈にしないように工夫されています。視点が住宅設計者らしいです。
そして好文さんが以前から設計に取り入れたいと思っていた要素も組み込まれています。それはラ・トゥーレット修道院の回廊です。その要素が分解され、中庭として再構築されています。
そして何よりスタッフの接客の素晴らしさは老舗旅館かのようでした。そんなスタッフの動きを考慮した設計も素晴らしく、実は、、、と語るに尽きない建物なのです。
牧野富太郎記念館
牧野富太郎記念館は内藤廣さんが設計しました。高知県の五台山にある建物で、植物園と一体的に作られています。
ここは牧野富太郎さんという植物学者のための記念館です。山の地形に沿って植物が植えられ、敷地では散策とともに多種多様な植物を見ることができます。
建物は周辺の環境を許容し、そして受け入れられるために存在しています。鉄骨と木のハイブリッドで屋根架構を構成しているのが建物の特徴です。
切妻屋根の軒下空間は屋外と対比的に一段と沈着したところになっています。
せんだいメディアテーク
せんだいメディアテークは伊東豊雄さんが設計しました。以前見たときは完全な姿を見ることが出来ましたが、2019年4月に再び行った際はチューブの部分が改修中でした。
ここはまさしく平成の時代を象徴する建物だと思います。
意匠的なスマートさを構造的安定性の元にユニークに解決しています。スラブの薄さ、チューブによるヴォイドの多様さが見所です。
そういえば以前行った時、偶然ジャズフェスティバルが行われていました。
心地の良いサウンドが流れた夕暮れの並木通りを歩いたあの瞬間は、今でも自分にとっての仙台のイメージになっています。
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狭山池博物館
狭山池博物館は安藤忠雄さんが設計しました。ここは安藤建築の中で自分が一番好きなところです。
ランドスケープに対しての建築という安藤さん的な設計が好きになったキッカケがここでした。
狭山池という、昔は生活用水を灌漑していた池の歴史を学ぶことができます。実際に池を見てから博物館に向かっていくのですが、アプローチがとても長いです。
途中には階段を降りたり登ったり、池の水を利用した滝の脇を通ったりと濃密な時間をそこで過ごすのです。
環境があって建築がある、安藤さんは誰よりもその中間の設計が上手いと感じました。
世田谷美術館
世田谷美術館は内井昭蔵さんが設計しました。自分が内井さんに興味を持ち、初めて見た建物です。
それまで建築に対する「装飾」というものに消極的だったのですが、ここを見てから考えが変わってきました。そんな転換点を作ってくれた建物です。
これは感覚的なものなのですが、村野さんの装飾は彫刻的・芸術的で、内井さんの装飾は建築的に感じます。
どちらも素晴らしいのですが、建築に対する装飾は、身体に対する服だという考えだったところに、身体に対する皮膚なのだと教えてくれました。
ここはそんな「皮膚的装飾」というものを学んだ場所なのです。
おわりに
建築というのはとても奥深い学問であるとつくづく思います。それも多くの建物を見て、データが蓄積してくると余計にです。
また普遍的な真理として、実物主義であるというところも面白いです。感じ方が人それぞれだからこそ、作り方に奥行きが出てきます。そこが自分が建築に固執する理由なのかもしれないと思いました。