グスクの中に広がる展示空間|企画展・新海誠展「沖縄県立博物館・美術館(おきみゅー)」

建築

はじめに

沖縄県立博物館・美術館(通称:おきみゅー)は沖縄県の那覇市にあります。通常はほぼ建築視点でのみ建物を紹介するという内容ですが、行った時に開催されていた美術館の企画展・新海誠展(会期:2018/12/18-2019/2/3)があまりにも素晴らしかったので、そちらの内容も多めに書こうと思います。

グスクをイメージした外観

建物の設計は石本建築事務所です。敷地は県道251号線と那覇中環状線という大通りの交差点に面しており、突如としてそびえ立つ様子に初見のみならず何度見ても迫力かつ異質感を感じます。21世紀のグスク(御城)をイメージした外観を目指したようです。

大通りからの直接的なアプローチは目的への道のりという過程を車というツールにより根こそぎとるという意味である意味現代的かもしれません。また城というものは地形と共にありますが、ここは周囲と共にフラットな平面上にあります。それが故に突如現れるという表現に繋がります。

外観として現れる壁はPC(プレキャストコンクリート)版として存在し、それは本体の躯体を日射による熱負荷を低減するための装置としての役割を担っています。外から見ると非常に期待感を高められる建物なのですが、外部との接触部分は一番外側のスキンと中庭だけなので、グスクのように登っていくことはできませんでした。「登る」という行為は人間の縄文的な本能に結びついていると思っているので、この建物形式を採用するのであればあってほしいなと思いました。

ホワイトキューブ内に林立するコラム

建物の外側のスキンを剥ぐとホワイトキューブのミュージアムが浮き上がります。エントランスホールに入ると建物規模に対して大きな気積であるように思いました。その空間に樹木のような柱が落ちてきて、その上部がトップライトになっています。光の落ち方が柔らかで綺麗でした。しかしどうも内と外のデザインが異なりすぎてグスクがパッケージ化されている気がしていまします。そこは少し勿体無さを感じてしまいました。

新海誠展|「ほしのこえ」から「君の名は。」まで

新海さんがあれだけ世間で話題になっているにもかかわらず、行った時点では恥ずかしながら未だ一つも作品を見たことがありませんでした。だからこそ今回の展示は新鮮で中立的な見方ができたかと思います。

[展示作品一覧]
・ほしのこえ(2002年)
・雲のむこう、約束の場所(2004年)
・秒速5センチメートル(2007年)
・星を追う子ども(2011年)
・言の葉の庭(2013年)
・君の名は。(2016年)

2人の距離の描写

個人的に心象描写に惹きつけられた作品が「ほしのこえ」です。地球と宇宙という別々の場所にいる男女が携帯電話でメールを送り、超長距離メールサービスを使って相手の元に届くことになるのですが、画面に表示される時間が「到着まであと8年」という途轍もなく遠い距離を感じさせる描写です。このシーンだけで2人の心象が一気に飲み込めます。 これが新海さんの劇場デビュー作「ほしのこえ」です。

作品を引き立たせる主題歌

そして主題歌はどれも素晴らしい歌ばかりです。展示会場でも流れていて一番感動したのが「言の葉の庭」の主題歌である熊木杏里さんの「Hello Goodbye & Hello」です。もちろん新海さんの作る映像を含めてですが、作品を通して見ていないにも関わらず感動してしまいました。また「秒速5センチメートル」の主題歌になっている山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」は新海さんがコンビニに入った時に偶然流れていて、それがこの曲との出会いだったそうです。

挑戦の精神

自分が一番見たいなと思った作品が「言の葉の庭」です。靴職人を目指す男子高校生と雨の時にだけ公園の東屋に現れる”女性”のお話です。作中の8割が雨の場面という特徴を持っていて、この作品では植物に反射した緑の光というのが効果的に取り入れられています。通常の輪郭線は黒で描きますが、緑が反射しているところの輪郭線は緑で描かれています。そうした試みも見られる作品です。

植物に反射される緑の光の様子(展示会場のポスター)

世界を巻き込んだ作品「君の名は。」

そして新海誠監督の名が世間に広く知れ渡ったであろう作品が「君の名は。」です。日本映画の歴代興行収入ランキングで2位になったようです。1位は「千と千尋の神隠し」です。あれだけ話題になっていたのに今まで見ていなかったのは単なる鑑賞意欲が出るタイミングに過ぎませんでした。そしてそのタイミングが新海誠展を経て絶好期を迎えました。

「ほしのこえ」の上映に始まり、数々のチャレンジを経ての「君の名は。」なのです。オープニングのCGを作るためのレイヤが展示させられていたり、踊りを忠実にアニメーション化する過程の展示があったりしてとても工夫したのだろうなと思うような痕跡を見ることができました。

RADWIMPSの曲も「君の名は。」のために創作されていて作品と非常にマッチしています。新海誠展はこのRADWIMPSの曲に始まりRADWIMPSの曲で終わるくらい場の雰囲気をコントロールする力があって音楽の力は底知れないと感じました。

おわりに

建物見学に加えて、企画展にて非常に有意義な時間を過ごすことができました。展示されている文字を全て読んでいたらあっという間に2時間半が経っていましたが、見終えた後の余韻が強くて常設展は次回見ることにしました。

新海さんは全ての作品に共通する普遍なテーマとして「喪失」を挙げていました。それは人間的であるということです。喪失とは人生であって、回復もまた人生です。

では”建築”はどういう表現が人間らしいのか?という命題を今回提示された気がしました。

 

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