国民の8割が暮らすHDB住宅と都市計画|シンガポールの現地調査

調査

はじめに「シンガポールの住宅開発」

シンガポールは東京23区と同じくらいの面積の国です。その中に約560万人という人口を抱えているため、人口密度が高いです。

そんな多くの人口の受け皿となる住宅の開発が、現在もシンガポールの各地で進んでいます。

住宅の種類としては、シンガポール国民に対して供給されているHDB住宅や、外国人向けのコンドミニアムサービスアパートメント、そして富裕層しか買えない一戸建て住宅があります。

※今回は現地に行った体験を踏まえ、HDB住宅やシンガポールの都市計画について紹介したいと思います。

新旧の都市計画、ジャクソン・プランとコンセプト・プラン

シンガポールでの住宅開発は盛んですが、それらは国よって定められた都市計画を元に進んでいます。

その初めは1822年に遡ります。

シンガポールはイギリスの植民地でしたが、無秩序だった都市開発を整えるために、ジャクソン・プランが打ち出されました。

※ジャクソンという人が担当していたことからその名が付いています。

大きな方針としては、シンガポールにいる多くの民族ごとに住むエリアを割り当てるということでした。

そして西欧、中華、インド、マレーなど、それぞれの民族が割り当てられたエリアに移り住みました。

その名残として現在も、チャイナタウンやリトルインディアといった街が見られます

その後、シンガポールは1965年に独立をしましたが、その際に新たな都市計画としてコンセプト・プランというものが作られました。

当初のコンセプト・プランを「Concept Plan 1971」といい、その後Concept Plan 199120012011と内容が更新されていっています。

このプランをもとに、都市構造を形作るための長期計画のガイドラインを示しています。

下図はConcept Plan 1971です。

【参照】https://www.ura.gov.sg/Corporate/Planning/Long-Term-Plan-Review/Past-Long-Term-Plans

この際に、現在のマリーナベイサンズの西側に位置する箇所をビジネス街とする方針が作られました

その計画に沿って、現在はさまざまな企業の本社などが集まっているのが見られます。

また、海側の中心地を核として、円形状に広がるサテライト都市を作るという計画になっています。

そして、計画は1991年に見直されます。

下図はConcept Plan 1991です。

【参照】https://www.ura.gov.sg/Corporate/Planning/Long-Term-Plan-Review/Past-Long-Term-Plans

ここでは業務・住居・自然といった、都市環境のバランスを整えるように調整されました

工業地帯として、南東に位置する7つの島を埋め立て、1つの島にするという計画が立てられました。

そこは現在のジュロン島として、計画通り工業地帯の島となっています。

そして2001年、2011年とプランは微調整を加えていき、現在に至ります。

下図は最新のConcept Plan 2011です。

【参照】https://www.ura.gov.sg/Corporate/Planning/Long-Term-Plan-Review/Past-Long-Term-Plans

シンガポールは国土が小さいために、埋め立てをすることにより国土を広げていっているというのが特徴的です。

シンガポールの住宅方式

都市計画による方針の元、住宅の開発は昨今も続いています。

中心市街地での開発面積は限られていますが、中心地から離れたところではまだまだ開発事業は盛んである印象を受けました。

シンガポールの住宅の種類としては下記に分類されます。

シンガポールの住宅の種類
HDB住宅
・コンドミニアム
・サービスアパートメント
・一戸建て住宅

シンガポールにおいて一戸建ては高級なので、住んでいる人は非常に限られます

なので今回は、多くの人が住むHDB住宅について紹介したいと思います。

大規模開発の進むHDB住宅

HDBというのは「Housing & Development Board」の略で、公共住宅を供給する政府の機関の略です。

シンガポールでは1960年代に住宅危機が起こりましたが、その際に設立された機関です。

ざっくりと団地のようなものをイメージしてもらえれば分かりやすいと思います。

HDB住宅の例

このHDBが供給する住宅、”HDB住宅”にシンガポール国民の8割が住んでいると言われています。

HDB住宅は基本的に分譲住宅のため、ほとんどの国民は購入しています。

一部賃貸としての利用もあるのですが、HDB住宅に住む人の9割は家を所有しています

その理由として、HDB住宅はその他の住宅よりも低価格で、かつ補助金が出ることが挙げられます。

しかし購入できるのは主にシンガポール国民で、外国人は基本的に購入できません。

建物の特徴として、1階部分は「Void Deckと呼ばれるピロティ空間になっています。

ピロティ空間「Void Deck

ここでは地域のイベントや結婚式、葬式が行われたりします。

普段は強い日差しを避ける道として、あるいは子供達の遊ぶスペースとして使われたりしています。

HDB住宅の住棟間には子供の遊び場や駐車場があったりします。

子供の遊び場

駐車場

また、HDB住宅の一角にホーカーセンターと呼ばれる屋台村があることもあります。

ホーカーセンターは安く美味しい料理を食べられるので、どこも多くの人で賑わっている印象があります。

HDB住宅の開発はまだまだ続いていますが、近年では”BTO住宅”というものが流行っています。

BTO住宅群

BTOとは「Build-to-Order」の略で、受注建築方式のことを言います。

これもHDB住宅の一種なのですが、建設前に販売されるというのが特徴です。

また、購入することになるものの、99年の使用権が設けられているというのも特徴です。

開発中のBTO住宅

おわりに「国による住宅事情の違い」

以上、シンガポールの都市計画とHDB住宅についての紹介でした。

住宅不足を改善する政策は、さまざまな国で見られます。一方、日本は空き家問題に悩まされているという一面を持っています。

シンガポールでは一戸建て住宅が超高級という位置付けなので、それを利用して空き家を中心とした一戸建ての再利用を外国人向けに展開するというのはどうかと思いました。

日本人が当たり前の戸建住宅は海外ではもっと価値があるものであることが多いです。国によって異なる住宅事情、調べてみると非常に興味深いものがありました。

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