はじめに「図書館で調べ、現地調査へ」
台湾のマンションは日本と異なるところが多いです。それは住戸の考え方の違いや、法規的な違い、デザインの違いなど多岐にわたります。
実際に台湾のマンションを見て気づくものも多いですが、台湾の参考書を読んで学んでみました。
今回は台湾の図書館でマンションの計画について調べ、そしてマンションの実地調査もしてきましたので、紹介したいと思います。
・台北の建物探訪11選《台湾旅》←台北にある建物を紹介しています
・台湾のマンションに宿泊し、建築視点で調査|台湾と日本の違い←現地調査をしてきました
台湾にある様々な住宅モデル
台湾の住宅モデルは、大きく次の6つに分かれています。
※ちなみに台北に住む人のほとんどはマンションで、戸建住宅に住んでいる人は少ないのです。
それぞれ紹介したいと思います。
民間住宅
多くの人が住むのが民間住宅になります。これはその名の通り、民間が供給する住宅です。対して民間住宅以外の5つに関しては政府が供給する住宅になります。
国民住宅
国民住宅というのは、政府が供給するマンションですが、住戸を購入することができるのが特徴的です。ですが2015年に国民住宅条例が廃止され、建設については1975年から始まっていますが、2000年でストップしています。要するに、過去の政策により建設されたマンションです。
合宜住宅
合宜住宅は2010年に販売が開始されたマンションです。国民住宅と同じようなものなのですが、不正行為が頻繁にあったたため、すぐに販売が中止となりました。
青年住宅
青年住宅は合宜住宅と同じく2010年から供給されたマンションですが、賃貸として供給されています。
社会住宅
現在台湾でホットなのが、社会住宅です。社会住宅は購入はできず賃貸のみです。”低収入の家庭などに対して住む場所を提供する”という目的で建てられているので、賃料は相場より低いのですが、その分入居希望者が多く、高倍率の抽選となっているのが現状です。
現代住宅
現代住宅は合宜住宅と似ています。2011年に供給が開始され、住戸の購入はできるのですが、最大70年の借地権が設定されていることが特徴的です。
台湾のマンションの設計フロー
マンションの設計に関する参考書を台北の図書館で見つけました。「好宅 集合住宅規劃設計」という本です。
日本ではマンション設計に関して具体的に書かれた本は無いように思うので、このような本を読むことができるのは貴重です。
台湾のマンションの設計フローについて書かれていたので読んでみました。図面を作り、設備設計や構造設計との調整をし、共用部の計画、景観計画をする、と書かれている点では日本との違いは見られません。
しかしその後、計画に対して空地の審査や都市計画の審査があるようです。
日本ですと条例や地区計画、総合設計等により空地の確保が必要になりますが、台湾ですと一律で空地が必要になるのかもしれません。
また、都市計画の審査は日本ですと再開発だったり、特殊ケースの際に必要になりますが、台湾では設計フローに関わってくるようです。
さらに、空地を設けたりすることにより容積率ボーナスを受けられる制度もあり、日本とも似ています。
日本と同じように基準容積率というベースがあり、空地や都市更新、共用部、バルコニー等の計画に配慮することにより容積ボーナスを受けられるようです。
台湾でホットな社会住宅
先ほど社会住宅について少し紹介しましたが、現在台湾ではホットな話題なのです。
そして次々と社会住宅が建設されています。
台北市には社会住宅の位置を示したマップというのがあります。
そしてそのマップから気になる物件を選択すると、物件概要を見ることができます。
それは設計図面やパースを始め、どのような計画になっているかが詳細に書かれています。
驚くのはそれら建物のデザインが決して画一的なものでなく、きちんとデザインされているのです。
また、社会住宅の設計ガイドブックというものも公開されています。
そこには住戸モジュールの考え方であったり、多くの情報が公開されていて、非常に勉強になります。
また、台北の社会住宅の注目度ランキング(2022年9月時点)というのも公開されています。
注目度が高いことからも想像できますが、社会住宅はとても人気で抽選の倍率が高く、入居のハードルは高いそうです。
行善社會住宅を調査しに行く
先ほど台北の社会住宅の注目度ランキングを紹介しましたが、その中で3位になっていた行善社會住宅を調査してきましたので紹介したいと思います。
行善社會住宅は松山駅から北東に1.5kmほど行ったところにあります。台湾には珍しくバルコニーが広く設けられている建物で、日本のマンションのようです。
外観デザインは造形的な遊びが多く、日本よりもコッテリとしていて要素が多い印象でした。
建物はL字の建物が2棟あり、それらが中庭を囲うようにしてロの字型の配棟計画となっています。
1階部分は回遊できるよう通り抜けのヴォイドがたくさんあり、敷地の東西南北の全周と繋がっています。
敷地内は全体的に歩道や広場が大きく設けられており、ゆったりとしています。
また、「開放空間標示」という看板もあり、自由に通行できる位置が明示されています。
ロの字型の配置で中庭に向けて住戸が配置されているので、住戸同士の見合いも気になるところですが、台湾ではそこまで大きな問題ではないのかもしれません。
そして新しいマンションだからかもしれませんが、給排気のベントキャップもきちんと設けられているようでした。
台湾では外壁にベントキャップが付いていないマンションが多いのです。そして給気口がなかったりと、換気計画に関しては日本と違うように見受けられました。
また斬新なのが、バルコニー下などに多くの配管がごちゃごちゃとして剥き出しになっていた点です。
その配管がオレンジ色だったりするので、見た目への配慮はした方がいいなと思いました。
建物の地下は3階までありますが、用途としてはほぼ駐車場になっており、地下1階の駐車場は台湾独特の防空避難施設となっています。
1階には3つの店舗があり、合計で750㎡ほどあります。そこにはファミリーマートもありました。
こちらの物件概要を下記に載せておきます。
所在地:豪北市内湖區行善路266、268號
用途:共同住宅、台北市政府公共交通局、幼稚園、介護センター、物販店舗
階数:地上10階、地下3階
住戸数:526戸
階高:3,400mm(基準階)
敷地面積:21,570.52㎡
建築面積:6,929.12㎡
延床面積:69,301.60㎡
建築主:中華工程股份有限公司
設計:郭怲成建築師事務所
施工:中華工程股份有限公司
竣工:2022年10月
おわりに「いつか台湾で設計を」
以上、台湾のマンション事情について、社会住宅の事例を取り上げて紹介しました。政府が低所得者を救済しようと増やしているのが社会住宅ですが、建築的な自由度が高い点がすごく良いなと思いました。
おそらく日本で同じようにやると、もっと画一的で安く効率的にという考えで建物が生まれてしまう気がします。
社会住宅に限らず、台湾のマンションはゆとりを大事にしていると感じました。それは行善社會住宅の住戸の階高が3.4mというところにも現れていたり、数値を見るとより顕著に感じます。
それはきっと設計をする際の感覚も日本とは異なるのだろうと思います。いつか台湾の建物を設計してみたいなと思いました。
※台湾にいると情報の透明性が高いことに気付かされます。様々な情報が整理され、ネットで公開されているのです。社会住宅についてはその位置や、物件概要を調べることができます。