はじめに
2019年1月にコルビュジェ建築を見るためにフランスへ行ってきました。ル・コルビュジェは近代建築の巨匠として「近代建築の五原則」を唱えた人でもあります。近代建築の五原則とは、ピロティ、屋上庭園、自由な平面、自由な立面(ファサード)、水平連続窓です。
それらを設計することによる効果を実際に見学して体験してきました。コルビュジェには個人邸宅から集合住宅、修道院など幅広い設計作品があります。フランスにはたくさんのコルビュジェ作品がありますが、その中でも代表的な作品を6つ選んで紹介します。
ユニテ・ダビタシオン(Unite d’Habitation)
ユニテ・ダビタシオンは南仏の街マルセイユにあります。1952年に完成した集合住宅です。特徴は住戸がメゾネット形式(1住戸が複層の形式)になっている点や、建物内にレストランやショップ、保育園、プールなどがあり都市スケールを内包している点です。
外観の水平垂直のグリッドはブリーズ・ソレイユという日射遮蔽装置になっていて、それらがリズミカルに構成されています。
建物内にはホテルもあり、周辺のホテルよりは値が張りますが泊まれるようになっています。実際に私も宿泊者としてユニテ・ダビタシオンを満喫してきました。
ラ・トゥーレット修道院(Couvent de la Tourette)
ラ・トゥーレット修道院はリヨン郊外にあり、リヨンはマルセイユから北に300kmほど離れたところにある街です。ラ・トゥーレット修道院は1960年に完成したカトリック・ドミニコ会の修道院です。山の斜面に建っており、眼下に市街を見渡せるような場所にあります。
一つのマッシブな建物として閉じているのではなく、ヴォイドが設けられていて回遊性を持っていることが特徴的です。更に外観として目立つ旋律を持ったルーバーは、後に音楽家となるコルビュジェの弟子が考えたデザインです。
眺望のいい部屋、中庭に面した廊下などのガラス面はこのルーバーとともに空間化されています。下階の突き当たりに礼拝堂の入口があり、中に入ることで感じることのできる様々な種類の自然光も、ある意味旋律を奏でているようでした。
ラ・トゥーレット修道院の内部は日曜日に開催されるツアーでのみ見学ができました。駅から坂を登ってアクセスする道中の穏やかな街並みも見どころです。
https://daily-scenery.com/2019/02/23/post-1545/
[adchord]
ロンシャンの礼拝堂(Notre Dame du Haut)
ロンシャンの礼拝堂はフランスの東部、山岳地帯のロンシャンにあります。ロンシャンはスイスやドイツとの国境に近いです。1955年に完成した礼拝堂で、敷地内には同じくコルビュジェの設計した建設労働者のための宿泊所や、レンゾ・ピアノが設計したビジターセンターなどもあります。
この礼拝堂の特徴は外壁にランダムな配置と大きさで散らばる開口や船底のように大きく被さる屋根に現れています。外側からではこれらがどう効いてくるのかは分かりにくいですが、内部に入るとここまで全体に蔓延するのかとその効果に驚かされます。
それはやはり多種多様な光が空間を包み込んでいるからなのだと思います。それぞれの壁面や天井が違った様相を示しています。中でも神秘的だと思ったのが、塔状のボリュームから落ちてくる光が船底天井に纏わりグラデーションに内部に浸透してくる様子です。
ロンシャンの礼拝堂はパリやスイスのバーゼルから行くことになると思いますが、無人駅というローカルな場所なので遠く不便であるということを覚悟する必要があります。しかしそうであるからこそ保たれるロケーションの美しさがありました。
サヴォア邸(Villa Savoye)
サヴォア邸はパリの郊外にあります。1931年に完成した住宅で、コルビュジェといえばサヴォア邸というくらい有名な建物です。「近代建築の五原則」はサヴォア邸では如実に表現されています。
一階の玄関にアプローチする際に通るピロティ、建物四面に現れる水平連続窓、スロープを介して中庭と繋がる屋上庭園、そしてそれらが組み立てられる平面、立面(ファサード)です。
コルビュジェはサヴォア邸に「建築的プロムナード」という概念を加えていると言われています。それは建物の内と外を等価に扱い、住空間を外部に延長するという考え方です。
サヴォア邸ではそれがスロープや中庭などが作る全体的な回遊性として表れていると思います。コルジュジェの内外の延長的な相互の捉え方は住宅に限らず他の建物でも同じように現れています。
サヴォア邸は観光客向けのパリのミュージアム・パスの中に含まれているので、それを買えばチケット代を追加で払うことなく入ることができます。
https://daily-scenery.com/2019/01/28/post-1211/
[adchord]
ラ・ロッシュ邸(Maison La Roche)
ラ・ロッシュ邸はパリの郊外にあります。そこは16区というエリアで高級住宅地にあたります。周囲にはアパートが建っていて、建物に囲まれた環境であることがサヴォア邸の敷地環境と大きくことなるところです。
建物の特徴はギャラリー部屋や渡り廊下の設けられた3層吹抜けのエントランスホールがあることです。ラ・ロッシュ邸は敷地的に平面を広く取ることができないために、配膳をするために上下階を繋ぐ装置があるなど、ディテールの見所もたくさんあります。
ル・コルビュジェのアパルトマン,アトリエ(Appartement-Atelier de Le Corbusier)
ル・コルビュジェのアパルトマン,アトリエはパリの郊外にあります。ラ・ロッシュ邸と同じく16区にあります。1934年に完成したアパートで、コルビュジェが暮らし、アトリエとしても利用していた場所です。
コルビュジェ宅はこのアパートの最上階にあり、屋上庭園もあるメゾネット形式になっていました。周囲の建物と隣接しているため、建物中央部の光が届きにくいデッドスペースの処理にヴォイドを2つ設けているのが特徴的です。
そのため建物内には自然光がたくさん入ってきます。特にコルビュジェ宅は最上階であるので眺望が良く、自然光で溢れています。他の住宅作品と同様にディテールもたくさん詰まっています。
おわりに
コルビュジェの設計する建物にはたくさんのディテールがあり勉強になりました。そして細部の一点だけではなく、広角的に見たときのバランスや光の使い方も秀逸だと感じさせられます。
それらの建物を見てどう感じるかはその時までに自分が蓄積してきた経験や知識で変わってくると思います。次に見ることになるのがいつになるかは分かりませんが、その時点で感じるものを大切にしたいと思えたコルビュジェの建物探訪でした。