はじめに「体験を重ねて世界を再構築する」
これまで国内外を随分と旅してきました。
今回の旅はまだ行ったことのない街を中心に、事前に調べていた建物を見て回りました。
日本の春というのは旅のしやすい季節です。
汗ビショになることもなく、冷えて手足の感覚がなくなるようなこともありません。
大変な思いをした旅は思い返せばよく頑張ったと自分を賞賛してあげたくなるようなものばかりですが、今回のような快適な旅は爽やかな比喩に使えそうな情景や思い出ばかりでした。
これまでの旅は、そのそれぞれがどれも個性的で、大きな塊として頭の中に居座っています。
旅をしていると「何処かで見たことあるようなもの」がよく現れます。
それは決して似ているものではないのですが、例えば金沢で見た”バス停の看板”が、ロンドンの”地下鉄の看板”の記憶を蘇らせたこともありました。
多くの体験をすることは、このようにして世界にあるものを自分の中の世界として再構築することでもあると思います。
その世界を広げたり、混ぜ合わせたりできる(そのほとんどは無意識的なものですが)というのが新しい体験をする醍醐味になっています。
そういう思考回路が出来たのも旅の積み重ねの結果なのかもしれません。
それでは北海道・東北地方から東京へと南下していく今回の旅の記録を綴ります。
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今までと違った交通手段
始めに断っておくと、私の旅は”低予算”です。
潤沢な資金のある旅とは雲泥の差なので、その状況を四苦八苦しながらいかに有意義かつ最大限に継続するか、ということに頭を使います。
お陰で自分にとっての最適解を常に選択するスケジュール管理の術が身につきました。
地方は電車の本数が少ない
旅の基本交通手段は電車です。
都市圏では特に憂慮する必要はありませんが、地方になると自分にとって何物にも代え難いその足(電車)の動きが鈍くなります。
1時間に1本あればいい方、そう思うようになります。
その優雅に運行する電車の時刻を調べ計画を立てるのは当たり前です。何せ1日にできるだけの建物を見たいからです。
バスを利用した方が効率的なときも
北海道・東北の旅で感じたのが、電車よりバスの方が移動手段として確立しているということです。
本数もバスの方が多かったり、値段も安かったりします。
・札幌から旭川や函館
・青森から十和田
・鶴岡から寒河江
上記の移動には長距離バスを使いました。
私はバスだと酔ってしまうので、乗ることを出来る限り避けているのですが、今回ばかりは致し方ない状況でした。
※ちなみに、札幌から函館まではバスで5時間もかかります。新幹線でも3時間はかかります。しかもバスでも片道5,000円ほどです。北海道は広いことを実感します。
津軽海峡はフェリーで
そして函館から青森に行く時に乗ったのが津軽海峡を渡るフェリーです。
フェリーは中々乗る機会がないです。瀬戸内海の島々に行った時以来の乗船でした。
フェリーは200人かそれ以上は余裕で乗れそうなものでしたが、乗り合わせたのは20人ほどでした。
その内幾人かはトラックの運転手さんでした。
貨物船に乗せてもらったような不確かな居心地を感じながら青森港へ向かい、着いた時には辺りは真っ暗でした。
付け待ちのタクシーが待ち構えていましたが、青森駅までは歩いて30分ほど。
暗い森の中を徘徊する動物のように、いずれ現れるであろう市街地の光を求め、歩き続けたのでした。
メリハリを付けた旅で特別感を加える
節約旅の基本は費用をかけるところとかけないところのメリハリだと思っています。
私の場合は次のようにしてメリハリをつけています。
◯費用をかけるもの
・建築に関わるもの(見学費、宿泊費)
×費用をかけないもの
・移動、食事、宿泊
要するに、建築を学ぶことが旅の趣旨なので、そこにお金を使います。
今回の旅では、坂茂さんの設計したスイデンテラスの宿泊、内藤廣さんの設計したビブレでのランチに費用をかけようと思っていました。
なので宿泊はネットカフェやカプセルホテルを中心に、日々2000円前後で宿泊費を抑えていました。
その結果、スイデンテラスの宿泊がより有意義なものに感じました。
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旅の記憶
旅を終えると、いくつもの記憶が蘇ってきます。挙げてみると下記の記憶が鮮明に残っていました。
・カプセルホテルに泊まったら宿泊者が少なかったため、ワンランク上の個室の部屋にしてくれたこと。
・歩いていたら地元の小学生や高校生が挨拶してくれたこと。
・ビブレでの食事中にお店の人と世間話をしたこと。
・都会では滅多に見られないフキノトウを観察するようになったこと。
人との出会いというのは特に記憶に残りやすいです。
12日間で見た建物の記録
北海道・東北の旅で全てで43箇所の建物を見ました。その全てを公開します。
1日目(東京–札幌)
(※夜到着のため、建物は見ず)
2日目(札幌–旭川–札幌)
・ビブレ(設計:内藤廣)
・旭川合同庁舎(設計:黒川紀章)
・旭川駅(設計:内藤廣)
広大な土地ということを改めて感じました。ビブレというレストランへは、最寄り駅から歩いて1時間かけて行きました。
3日目(札幌–函館)
・頭大仏殿/真駒内滝野霊園(設計:安藤忠雄)
・六花亭(設計:古市徹雄)
・渡辺淳一文学館(設計:安藤忠雄)
・聖ミカエル教会(設計:アントニン・レーモンド)
なぜ大仏が頭だけ出ているのか。設計者の安藤忠雄さん曰く「そっちの方が有難く感じるから」とのことです。
4日目(函館–青森)
・はこだて未来大学(設計:山本理顕)
・函館市中央図書館(設計:鬼頭梓など)
・函館ハリストス正教会(設計:河村伊蔵)
大学生に混じって、はこだて未来大学の中を見学してきました。
5日目(青森–十和田–青森)
・十和田市現代美術館(設計:西沢立衛)
・市民交流プラザ・トワーレ(設計:隈研吾)
・十和田市民図書館(設計:安藤忠雄)
・十和田市民文化センター(設計:佐藤武夫)
・青森観光物産館アスパム(設計:日建設計)
青森の十和田市は建築作品が多いです。アクセスに難がありますが、一見の価値は存分にあります。
6日目(青森)
・青森県庁舎(設計:谷口吉郎、改修:日建設計)
・青森県立美術館(設計:青木淳)
・三内丸山遺跡
・国際芸術センター青森(設計:安藤忠雄)
青森県立美術館と三内丸山遺跡は隣にあるので、両方楽しめます。
7日目(青森–弘前–秋田)
・弘前市立博物館(設計:前川國男)
・弘前市民会館(設計:前川國男)
・弘前市庁舎(設計:前川國男)
・木村産業研究所(設計:前川國男)
・弘前市斎場(設計:前川國男)
・中三弘前店(設計:毛綱毅曠)
・弘前市社会福祉センター(設計:黒川紀章)
弘前は前川國男さんの作品ばかりです。前川ファンの聖地です。モダニズム建築を感じたくなったら弘前へ。
8日目(秋田–由利本荘–酒田–鶴岡)
・秋田市立中央図書館明徳館(設計:谷口吉生)
・秋田県立美術館(設計:安藤忠雄)
・由利本荘市文化交流館ガダーレ(設計:新居千秋)
・土門拳記念館(設計:谷口吉生)
・ショウナイホテルスイデンテラス(設計:坂茂)
スイデンテラスは客室でも坂茂さんのデザインした家具に触れることができます。
9日目(鶴岡–寒河江–仙台)
・荘銀タクト鶴岡(設計:妹島和世)
・鶴岡アートフォーラム(設計:小沢明)
・最上川ふるさと総合公園センターハウス(設計:内藤廣)
荘銀タクト鶴岡の屋根はインパクトが強いですが、施工が大変だったろうと思いました。
10日目(仙台)
・宮城県図書館(設計:原広司)※人が写らないように撮影
・宮城県美術館(設計:前川國男)
・せんだいメディアテーク(設計:伊東豊雄)
宮城県美術館は意外と来館者が少なかったです。ということはゆっくり前川國男さんの作品を感じられるということ。
11日目(仙台–郡山)
・郡山市立美術館(設計:柳澤孝彦)
12日目(郡山–北茨城–日立–水戸–東京)
・茨城県天心記念五浦美術館(設計:内藤廣)
・日立駅(監修:妹島和世)
・日立市庁舎(設計:SANAA)
・茨城県近代美術館(設計:吉村順三)※内部写真の掲載禁止
・水戸芸術館(設計:磯崎新)
五浦美術館からは五浦海岸を望めます。そんな風景に吸い寄せられるように重心の低い天井が作られていました。
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おわりに
春先の旅は非常に心地よく楽しめるものでした。特に建物を見るという目的は、カメラを撮るということでもあるので、寒いと辛いものがあります。
また暑くても歩いて目的地に向かうだけで汗だくになったりするので、気候の条件を吟味して旅先を決めるのも大切だと思いました。