はじめに
浦添市美術館は沖縄県の浦添市にあります。県内初の公立美術館として1990年に開業しました。
設計は内井昭蔵さんです。内井さんは幼少の頃から教会に頻繁に足を運んでいましたので、戦後の建築家の中でも、特にモダニズムからポストモダニズム建築という枠組みがあるなかでも独自の建築に対する思想を持った人です。
浦添市美術館は内井さんの設計を学ぶ場として以前から訪問を楽しみにしていました。
分棟の屋根が作る風景
那覇市から浦添市へと国道330号線が通っているのですが、その大通りに面して浦添市美術館があります。
敷地内に植えられた樹木の中に塔状の建物群が見えます。
文化ホールなどもある大きな敷地内にレベル差を伴って建物が配置されていて、外から見ると分棟が風景を作り出しています。
ブラスト処理の施された茶色の正方形タイルが外壁に貼られ、展望塔があったりして全体の印象を上手くコントロールしています。
建物は正四角形と正八角形の平面が組み合わさっていて、屋根部分と柱が正八角形になります。
経済合理性のため或いは無思考のために作られた四角形の柱に対するアンチテーゼ的な八角形の柱は、内井さんの細部のパーツへのこだわりを垣間見ることができます。
展望塔に登る
建物群の中にひとつだけ高い塔があります。
その展望塔には登ることができるので、階段は急ですが美術館の鑑賞とセットで体験してもらいたい場所です。
この塔も正八角形平面でその外形に沿って螺旋階段が回され、頂上に近くなると柱が中心に落ちた幅員の狭い鉄骨階段となります。
頂上に展望用の回覧スペースを取る必要があるためにそのようになっています。
頂上では建物群の屋根と周囲に広がる風景を一望することができます。 上から屋根を見てみると軒樋のディテールが分かります。
外観としての屋根を軒樋も含めたデザインとして等価に扱っています。軒樋にありがちなチープな軽さはなく、屋根の一帯として納まっています。
複数の空間構成エレメント
内井さんの建築デザインの考え方として、「装飾は人間を健康にする」というものがあります。
この浦添市美術館でもその考えの元に生まれた装飾はしっかりとありました。
まず先述の八角形の柱です。地上レベルのピロティではその柱の林立を見られます。
そのピロティの天井も正八角形に掘られています。ちなみにピロティにあった小ぶりな丸みを帯びた椅子は内井さんのデザインかは分かりませんが、全体の装飾バランスを引き締めるようで良かったです。
またキャノピーの柱にも世田谷美術館と同じような三角の構造的装飾が施されていました。片持ちのキャノピーで柱が現れないところは上部の吊材として三角が設けられていました。
そして沖縄のエントランスに必須のシーサーも庇の上にいました。
美術館内の採光
美術館内に取り込まれている光は大きく分けて2通りあります。中庭からの光と塔状の屋根のハイサイドライトです。
通路となるところは中庭からの光が大開口を通して入ってきて、展示室にはハイサイドライトが入ってきます。
ハイサイドライトといっても屋根上部は塔状にすぼまっているため集中したハイサイドライトは一体化してトップライトのようになっています。
頂部からの光は展示室を淡く包み込んでいて美しいです。
またエントランスホールも吹き抜けになっています。円状の吹き抜けの外周に通路があるためストックホルム市立図書館のようです。
実際にこの美術館でも本や資料の入った本棚があり、違ったシーンが作られた心地よい場所でした。
おわりに
浦添市美術館では内井さんの装飾的な建築デザインを沢山見ることができるためとても勉強になりました。
装飾という視覚的情報は確かに人の心を健康にするものなのだと思います。
近くには浦添市図書館があり、そちらも内井さんが設計しています。
行った日は図書館が休館日だったため外観のみの見学となりましたが、こちらも沖縄らしいパーゴラがあったりして見応えがあります。