はじめに
フランスのパリにあるル・コルビュジェのアパルトマン,アトリエに行ってきました。ここはコルビュジェの設計したラ・ロッシュ邸と同じく16区にあり、これらは共通チケットで見学することができました。
周囲の一連の建物の中でこのアパルトマンだけモダニズム的であるので外観は分かりやすいです。コルビュジェの集合住宅はユニテ・ダビタシオンが有名ですが、都市計画的で自己完結的なユニテ・ダビタシオンとは異なる、街の連続した建物の一つとしてのこのアパルトマンは内部空間がよりヒューマンスケールなものになっています。
最上階のコルビュジェ宅へ
フランスなどヨーロッパの国々は建物内に入る時点でセキュリティが設けられているため、外の壁についたインターホンで見学したい旨を伝えてエントランスを開けてもらうところから始まります。
日本の場合は建物内には入れて、そこで管理人室があったり呼び出せるようになっているので文化の違いでしょうか。そこにはなんとなく玄関に入り土間で靴を脱ぎ、部屋に入るというような行動の概念と似ている気がします。
1階の建物内に入ってみると、黒く塗られた丸い柱が構造体として空間に現れている様子が見られます。そしてここには建物間のヴォイド(吹抜け)から採光するトップライトがあり、建物に囲まれ暗くなりがちな場所を上手く処理しています。
ル・コルビュジェのアパルトマン,アトリエは最上階に設けられています。階段で上がる途中のフロアを見てみると、外廊下型になっていて狭い廊下には隣の建物との間に設けられたヴォイドから自然光が入ってくるようになっていました。
地図で建物の形を見てみると、道路に挟まれたここらの一連の建物はデッドスペースになりやすいところへの採光のためにヴォイドがそれぞれ設けられていることが分かります。自然光と人間の営みは密接に関わっているので、各々の建物がそのように設計されていることを知ると、設計者たちのリテラシーの高さが伺えます。
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リビングの家具と仕掛け
フロアにはアトリエ、リビング、ダイニングが直線上にあり、アトリエとリビングの間にある扉を開けると両側から光が抜けるようになっています。
リビングにはコルビュジェのデザインした家具が置かれていました。また横長の間接照明も設けられていました。間接照明で横長といのはコルビュジェが設計する様々な建物で使用していますが、それぞれの形が違っていて、ここの場合は箱型です。
そしてユニークだと思ったのが収納棚です。固定棚が扉に取り付けられており、扉を開いたときに腰高の収納と干渉しないようになっています。
眺望のいいダイニング
リビングの隣はダイニングとなっています。大きな開口が設けられており、バルコニー越しにパリの景色を一望できるようになっています。バルコニーの腰壁は手前の近景にあたる建物群をシャットアウトして、遠景のみを楽しめるようになっています。そして窓にはステンドグラスのボックスが取り付けられています。
作業・配膳のしやすいキッチン
キッチンはダイニングからアクセスできるようになっています。食器棚の中段部分が空いているため、ここが作業スペースであり、配膳スペースでもあります。また作業自体を閉じ込めないような意味も感じられます。
洗い場の正面は建物間のヴォイドに面しています。洗い物という行為を閉鎖的なものにしないように外の空間と接続するというのはサヴォア邸でも見られました。そして窓正面に見られるレールは荷揚げ用のリフトとなっています。
重たい訳あり扉の向こうにある寝室
ダイニングのキッチン側とは反対側は寝室になっています。ここの扉は大きく、そして重い扉になっているのです。反対側を覗いてみるとその理由が分かります。実はクローゼットが扉に付いているのです。キャスターによって扉が開くようになっているのですが、扉が重いため床には車輪の跡がびっしりと残っていました。
寝室のベッドを見ると高く持ち上げられているのが分かります。この高さにも理由があり、これは朝起きた時に真っ先に外の景色を見られるようにと考えられたものなのです。
寝室に接する水回り
寝室には水回りが接しています。まず部屋に入って目の前にあるのが洗面台のついた浴室です。浴槽は小さなものですが、斜めの天井にトップライトが設けられており、湯船に浸かるひとときを演出します。
そしてベッドの横にはカプセルのようなシャワーブースがあり、更にその奥に洗面台、トイレが設けられています。このように浴室、トイレなどが寝室側に設けられるとそちら側がプライベートで、リビング、ダイニングがアトリエとともにパブリックな性質が強くなるように感じました。
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光の溢れるアトリエ
アトリエは石張りの壁があり、そして光に包まれる空間になっています。というのも道路に面している側からの採光と、建物間に設けられたヴォイドからの採光で挟まれているためです。このような空間を作ることができるからこそ、大きな建物におけるヴォイドの役割は重要なものになってきます。
奥に設けられた書斎
アトリエの奥には天井高の抑えられ、こじんまりとした書斎があります。書斎には作り付けのカウンターがあり、正面はガラスブロックになっているため、日中は手元が明るくなります。
広い空間と狭い空間はセットで扱うことで別空間にいるような体験が可能になります。カウンター上には実際にコルビュジェが使っていた頃の写真が飾られていて、時代を超えて同じ空間にいられていると思うと嬉しくなりました。
螺旋階段を登って上階へ
リビングの横には螺旋階段が設けられています。螺旋階段の上部は屋上庭園に面していて、ガラス越しに屋上からの自然光を内部に届ける役目も担っています。
そして上階にはソファなどの家具が置かれていました。ベッドが置かれていたこともあるそうで、多目的に利用できると思います。この空間は屋根裏のような落ち着きがあるため、生活感から少し離れて穏やかな時間を過ごすのに向いていそうです。
おわりに
このアパルトマン、アトリエを始め、コルビュジェの設計した空間を体験すると居住空間に自然光が如何に必要かが伝わってきます。生活は内に閉じていても感覚は外に開いていることで暮らしの豊かさは生まれるのではないでしょうか。
コルジュジェが生涯を過ごしたこの空間で感じられるものは人ぞれぞれだと思います。パリで観光をする際は是非この空間も味わってみることをお勧めします。