汎用性を生む”さりげなさ”を設計する「ラ・ロッシュ邸(Maison La Roche)」

建築

はじめに

フランスのパリにあるラ・ロッシュ邸に行ってきました。設計はル・コルビュジェと従兄弟であるピエール・ジャンヌレです。ラ・ロッシュ邸は1925年に完成しました。施主のラ・ロッシュは美術品を飾るギャラリーが欲しいということで、そのための部屋が作られています。代表作であるサヴォア邸より前に作られていますが、ここでもコルビュジェの提唱する”近代建築の五原則”を感じることができます。

水平連続窓のある部屋

食堂

近代建築の五原則の中に”水平連続窓”があります。水平連続窓は部屋の中に均質な光をもたらします。2階の”食堂”にある水平窓は腰高に設けられていて、椅子に腰かけた時にそのアイレベルで外の気配を感じることができます。

ギャラリー

そして2.3階吹抜けの”ギャラリー”の水平窓はハイサイドライトのごとく高い位置に設けられています。ギャラリーという用途のためその位置にしたのだと思われます。この部屋は壁が弧を描くように湾曲しているため、スロープの上り下りとともに外の景色のシークエンスが感じられます。

吹抜けの渡り廊下

ラ・ロッシュ邸は玄関を入ると3層吹抜けのエントランスホールが現れ、その両側に居室があります。その分節された居室同士を繋ぐのが2階部分に設けられた”渡り廊下”です。その渡り廊下は外側がガラス張りで、屋外を歩いているような感覚にもなります。

その視覚的操作と浮遊感はコルビュジェの理念である「建築的プロムナード」に近いのではないかと思います。屋内でできる屋外的体験は生活を閉鎖的なものから領域を拡張し、それは精神的な安定にも繋がるのではないかと思います。実際に外からの自然光が入ってくるかどうかがストレスと関わっているという調査結果があったりするなど、生活において外を感じられるかどうかは重要なポイントになってきます。

屋上庭園

近代建築の五原則のひとつ、”屋上庭園”はラ・ロッシュ邸でも見ることができます。カウンターのような小さな台の付いた腰壁で囲われており、緑化もされた屋上庭園は気分転換のできる空間になっています。一つの住宅の中で違った質の空間を作り出すということは、住む楽しさとその楽しさの継続に繋がっているように思います。

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ディテール編

ここでは個人的に気になったディテールをいくつか紹介します。

2階へ食事を運ぶ棚

まず気になったのが、1.2階のシャフトに設けられていた棚です。1階には台所があり、2階に配膳室・食堂があるため、1階で作った食事を2階へ届ける装置なのです。人が運ぼうとすると階段を使った動線になりますが、垂直に滑車で運べば安全かつスピーディになります。実際に生活をするとなるとこういった発想が大事なのだと思います。

縦長の開口

コルビュジェは様々な作品で通気用の縦長の開口を設けていますが、ラ・ロッシュ邸では少し変わった形として見られました。方立によって分割された窓の真ん中だけが開くのです。それ以外ははめ殺しになっていました。

細長の間接照明

間接照明もコルビュジェ作品でよく見られます。ラ・ロッシュ邸の場合、断面が三角形状で、壁からブラケットによって宙に浮いたように支持されていました。

真鍮製の金具など

建物内には真鍮製のものがたくさん見られました。ドアノブ、シリンダー、閂、コート掛け、照明用スイッチなどです。私のお気に入りは照明用のスイッチです。思わず手を触れて見たくなるような丸みを帯びた形をしています。それが場所によって縦に2つや3つで並んでいるのでインテリアのように存在しています。

おわりに

コルビュジェの住宅作品は現代の住宅設計にも参考になる要素がたくさん散らばっています。アイデアというのはその住宅の特徴にもなって、住む人によってまた使われ方が変容していくものだと思います。なので完全に唯一無二のものを作るというよりは、さりげなさという汎用性に繋がるような工夫が住宅を作る際には必要なのではないかと思いました。

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