はじめに「真駒内駅よりバスにて向かう」
春先に札幌にある、真駒内滝野霊園へ行ってきました。ここには建築家・安藤忠雄さんの設計した頭大仏があるのです。写真で見たときの異質感が大きかったので、実際に目で見て確かめたかったのもあります。
札幌市内から向かったのですが、地下鉄の真駒内駅で降り、そこからバスに乗って真駒内滝野霊園の停留所で降りました。平日の朝9時という早い時間であったこともあり、自分を含め数人しかいませんでした。
北海道の雄大な風景
バスを降りると、さすが北海道とも言うべし雄大な風景が現れました。霊園の敷地面積は180haもあります。そこには都会に現れるような雑多な音は無く、風が吹き草花の擦れるささやかな音、遠くにいる鳥の鳴き声といった自然の音に包まれます。
普段いる場所でどんな音がするかは意識することは少ないですが、音が少なくなると急に限られた音へ意識し出すものだと思います。そんな考えに浸っていると、あの頭大仏が目の前に現れました。
頭だけが丘から現れる「頭大仏」
写真では見たことがありましたが、大仏の頭がひょこんと丘から出ています。丘があり、背景には雪山がある中、大仏は地表に出るのを拒むように鎮座しています。
なぜ大仏の頭だけが出ているのか。それには建築家・安藤忠雄さんのアイデアが隠れており、「有難く見せるためにはどうすればいいか」を求めた結果なのです。
また、安藤さんは「見えないことが想像力を喚起する」とも述べています。少ししか見えないと「他の部分はどうなっていうのだろう」という疑問が湧き上がってきますし、大仏の足元まで行く明確な理由になってきます。
気持ちの切り替えの場「水盤」
大仏に対しては、直線軸のアプローチがとられているのですが、途中に水盤があり、水盤に沿って迂回しながら近づいていくことになります。
そこには、ハレとケの切り替えの意味が含まれており、気持ちの切り替えを行うための場なのです。行った時は改修中でしたが、水盤は安藤さんがたびたび使う手法です。
頭大仏の足元まで近づく
大仏の足元には丘の下のトンネルを通っていきます。実は以前はこの丘がかけられていなかったのです。既存の大仏が元々あり、その後に丘が作られました。
覆いのない状態の大仏はそこまで注目されていなかったようです。そこで、前述しましたが「有難く見せるため、注目されるため」に作られたのが大仏周りの丘なのです。
アプローチ部分は、リブが付いたコンクリートが円弧状(1/6の円弧)にかけられています。奥には大仏がいるのですが、先程は頭しか見えなかったのと対照的に次は胴より下しか見えません。
そして大仏の部分は当然吹き抜けなので、光が上部から降り注いでいるのです。下からの視点として、先程の頭だけ見えていた時とは異なる有り難みがあります。
至近距離まで行ってみると、高さ13.5mの大仏が現れます。大仏の周りの壁は襞状にギザギザとしたRCの打ち放しです。完全にむき出しの大仏よりも、外と中の対比がある中で存在するこっちの大仏の方がよほどインパクトがあります。
工事の様子、安藤忠雄さんの紹介「ロタンダギャラリー」
水盤の横には、大仏を正面として左にカフェ、右にギャラリーがあります。ギャラリーでは工事期間の様子を見ることができます。
そして安藤忠雄さんの紹介もされており、頭大仏プロジェクトに対して次のように述べています。
「これほど広大なスケールのランドスケープは初めてのこと。北海道にしかない、これまで例のない新しい世界をつくることができた。」
このプロジェクトは、建築というよりもランドスケープの領域になってくるので、より北海道らしさを意識したのだと思います。
ボランティアによる植栽「ラベンダーの丘」
見学に行ったのは春でしたが、一番の見所な時期は夏です。なぜなら頭大仏の周りの丘に植えられた15万株のラベンダーの花が、一面を覆い尽くすように咲くのです。
その景色は生で見たらきっと圧巻なのだと思います。今回は時期的にそれを見ることはできなかったものの、ラベンダーの丘の手入れをしているところを見ることはできました。
背筋良く来訪者を迎える「モアイ像」
霊園の入口には、モアイ像(三十三モアイ地蔵)が訓練でも行なっているかのようにずらっと並列しています。ここまで多くのモアイ像に出迎えられるとVIP対応されているようで少々萎縮してしまいます。
モアイ像は手で触れられるくらいの距離まで階段で登れます。初めて知ったのですが、モアイの「モ」には未来という意味があり、「アイ」には生きるという意味があるようです。どうりで斜め上を向いているわけです。
直線に対する曲線の配置「ストーンヘンジ」
本場のストーンヘンジはイギリスにありますが、真駒内滝野霊園の中にもあります。ストーンヘンジは円環状に石が並べられています。
先ほどのモアイ像は直線上に並び、未来に希望を抱いていますが、そうするとストーンヘンジは循環的な未来への希望を抱くものということなのでしょうか。
寒々とした青空に映える「白樺の木」
霊園内は人工的なモニュメントとして大仏、モアイ像、ストーンヘンジなどがありますが、道中に生えていた白樺の木にも、自然界からのメッセージとして意味付けられているように感じました。
それはただ寒空との風景的な相性に惹かれたただけかもしれませんし、その時だけの受け取り方だったのかもしれません。
おわりに「歩くことで考える」
敷地が広かったのでたくさん歩くことになったのですが、歩いていると様々な考えが頭をよぎってきます。目に見える事についてだけではなくて、もっと内向的なことなどもです。
「歩いて考える」というのは、頭大仏を設計した安藤忠雄さんもその重要性を著書などで述べています。そしてそれが安藤さんの作品のアプローチなどにも現れています。広大な土地というのは歩き考えるためのキッカケが自然に作られる場所なのだと思いました。
行くのであればラベンダーの景色が映える夏がベストかと思いますが、いつ行っても満足度は高いので、一度は行ってみることをおすすめしたいです。
・考えること、歩くこと、建築と哲学「西田幾多郎記念哲学館」
・長いアプローチを楽しむ「狭山池博物館」
・兵庫で巡る安藤忠雄建築6つ《関西旅》
※この記事では頭大仏を含め、霊園内で見たモニュメントや風景を紹介します。