一級建築士の資格を取ることよりも大事なことを考えてみる

仕事・資格

はじめに

「一級建築士の資格を持っているけれども、それによって得られている恩恵はなんなのだろうか」と考えることがあります。

意匠設計の一級建築士として働いていることを振り返りながら、設計者として本当に必要なことをまとめていきたいと思います。

※この記事はこれから一級建築士の資格を取ろうとしている人や、今後取る予定がある人に向けて、参考になればと思って書いています。

一級建築士の資格を取った際に使った参考書などは別の記事で紹介をしているので、気になる方はそちらを見てみてください。

✔︎あわせて読みたい

・一級建築士の独学合格のためのテキスト→学科の参考書を紹介しています
・一級建築士の製図は独学で合格可能|体験談に基づくテキスト選び→製図の参考書を紹介しています。

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自分が何の設計をやりたいのか、を明確にする

私が働いていて感じる”一級建築士を取るメリット”は次の通りです。

・一級建築士事務所として独立できる
・大手に就職する際に有利

正直メリットというのはそのくらいだと思っています。

もちろん資格を持っていることに越したことはないですが、そこまで必要なのだろうかと思っています。

持っていれば世間体は良くなりますし、会社によっては給料が上がるかもしれません。

しかし、人からの見られ方は気にしなければいいですし、給料は資格でなく実力であげることができます。

※実際に私が一級建築士を持っていても、建築をやっていない人からすごいと言われるくらいです。

なので、視点を変えて自分の「目的」は何かと明確にすることが大事です。

例えば、商業施設の設計をしたいというのが目的だとします。

ですがそれを設計する担当者に一級建築士が必要ということではありません。一級建築士を持っている人が他にいればよいだけです。

そう考えると、一級建築士を勉強している時間を商業施設の設計に特化した勉強をして、事例をたくさん見学して自分の知見を深めていく方が、社会的にも貴重な人材になると思います。

実際に、一級建築士を持っていなくても活躍している人は多いです。

優秀でも一級建築士を持っていないのは、プロジェクトにとって重要な人物なだけに勉強する時間が取れないというケースです。

一級建築士試験というのは、実務ができれば取れるのでは無く、資格対策の勉強をしなければ取れないものだと思っています。

設計者として必要なスキルとは

私が考える設計者として必要なスキルを挙げてみます。

①形態的に考える能力
②プロジェクトを進める調整力
③コミュニケーション力
④謙虚さ

これらを見て分かるように、必要なスキルは一級建築士の資格を持っていることとは何ら関係がありません。

ある意味、設計者であるために一級建築士であることの優先順位はそれほど高くないというのが私の考えです。

上記に挙げた必要スキルをそれぞれ詳しく書いていきます。

①形態的に考える能力

設計者は平面図・断面図・詳細図・設備図・構造図…と書ききれないほどたくさんの図面を読み、調整し整合をとり、設計を進めていく必要があります。

現場に入って納まらないということが極力少なくなるよう図面を書いていきますが、その際に空間や納まりをイメージしながら検討していく能力が不可欠です。

平面だけ考えていても、断面が破綻していれば平面も破綻してしまうということになってしまいます。

その能力をどのように身につけるかと言いますと、よく聞く中では「慣れ」という言葉で片付けられるのかもしれませんが、それでは少々横暴なので別の言葉で表現します。

それは「疑問を持つこと」と「好奇心を持つこと」の2点だと思います。

形態的に考える力は決してすぐ身につくものではありません。どうしてこのようになっているのか、他のやり方はあるのか、一般的にはどうなっていて、今回はどのような特徴があるのかと、考えを波及していく必要があります。

正解は決して一つではないだけに、考えを敢えて収束していかず、常に模索しながら選択していくということの連続が、自分の力を高めていきます。

②プロジェクトを進める調整力

意匠設計者の場合、プロジェクトの中核にいることになります。設計者というのはとにかくやらなければならないことが多いです。

中核にいるだけに、多くの関係者との調整役となります。具体的には、建築主、意匠設計者、設備設計者、構造設計者、施工者、行政、民間審査機関、省エネ業務など外注先、メーカー、場合によってはテナント設計者やコンサルなど、プロジェクトの性質によって関係者は増えたりします。

これらの関係者とすべて対話をする必要があります。「いつまでに何をしなければいけないか」を常に考えながらプロジェクトを進める必要があります。

それを自身の設計作業と並行しながら進めていくので、1日の半分以上が調整業務になる場合がほとんどです。

例えば、設計の山場である確認申請の済証取得に向けて、その期日は着工や融資、支払いなどに関わってくるので、ひとつとしてミスが許されない局面が訪れたりします。

それは、自分ひとりが作業をすればいいのではなく、関係者全員が同じ期日に向けて作業をする必要があるのですが、「期日」への温度感は人によって異なるので、その足並みを揃えるのが設計者の仕事です。

時には死に物狂いでお願いをしたり、それは本望でなくても、やらなくてはいけない場面もあります。

調整力というのは、物事を常に俯瞰的に見ていないと身につかないものだと思います。設計図を書く作業とは全く別の能力になります。

③コミュニケーション力

「コミュニケーションは必要だ」というのは耳が痛くなるほどよく聞く言葉です。

設計者にコミュニケーション力が必要だと書きましたが、実は私はコミュニケーションが得意ではありません。

ですが、設計者には必要不可欠な能力であるというジレンマがあります。ですので、私は仕事中だけは考えを切り替えようという気持ちでやっています。正直、コミュニケーションは面倒臭いです。ですが、よい建物を設計する中で必要不可欠なのです。

プロジェクトが動いていると、1日の中で大量のメール・電話が飛び交います。少し外出しただけで10件以上メールが溜まっていたり、着信が入っています。

大事なのは人との関わりを大事にすることです。プロジェクトに協力してくれている人は同じベクトルを向いているので、決して無下な扱いをしないことが大事で、常に感謝の気持ちを表し、時には怒ることも必要です。

コミュニケーションを疎かにすると、ベクトルが徐々にずれていってしまい、求めていたアウトプットが揃わないということになりかねないです。

コミュニケーション力と言っても、話が上手い必要は無く、周りの人が気持ちよく作業できる情報や場を整えてあげる、そのための対話が大事です。

自分が雑に対応すると、受け取った側はさらに不快な反応をするものです。自分も色々な経験をしてきたので、コミュニケーションは苦手でも、社会人に求められる報告・連絡・相談は心がけています。決して完璧にできているとは言えないのですが…

④謙虚さ

そして最後に「謙虚さ」です。ひとつの建物を設計している中で多くの人が意見を言い合います。その中でもちろん自分の意見もあるのですが、自分の意見が最も正しいと思ってはいけなく、人の意見に耳を傾ける必要があります。

私が設計をやっている中で学んだ大きなことがあります。例えば打合せで「こういうのはどうだろう」という意見があります。そして設計者として「こうあるべき」という考えももちろんあります。

その時の回答として、「設計者としてこう考えているので、こうなりました」と言うだけでは不十分ということです。それでは独りよがりな設計なのです。

「このような意見をいただきましたが、その場合はこうなります。その上で設計者としてこのような理由でこちらの方が良いと考えました」という回答をすることで、発言者に対しての敬意を払うことになります。

新人の頃はそのような考えはできませんでしたが、多くの人と関わる中で学んだ大事なことです。

そして謙虚さは自分を成長させてくれます。今までのやり方に対して常に疑問を抱きながら決して満足しないことが大事だと思います。

自分の設計に対して自信を持つことは大事なことだとは思いますが、内心では疑い続ける必要があると思っています。他の設計者を見ていても、慢心している設計というのはたくさんあります。そこにはとんでもないミスが孕んでいるものです。


以上が私の考える「設計者として必要なスキル」でした。

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おわりに

いかがでしょうか。一級建築士であることは、仕事をする上であまり重要ではないことが分かると思います。

私が伝えたいことは「一級建築士の資格を取らなくては」という呪縛は、設計者であることとは別物であるということです。

ですが、未だに資格社会であることには変わりありません。一級建築士は不要とは言えませんが、設計者であることの方が遥かに重要ということをお伝えしたかったです。

少しでも参考になれば嬉しいです。

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