はじめに「三陸鉄道リアス線で釜石駅へ」
岩手県釜石市に三陸鉄道に乗って行ってきました。
釜石市では鵜住居のエリアも有名ですが、今回は2023年現在の釜石駅周辺についての記事を書きたいと思います。
東日本大震災の影響を大きく受けた釜石ですが、津波の被害を受けた当時の様子や復興の様子、商業施設周辺の賑わいのある様子など様々な側面を見ることができました。
津波から避難する高台、浜町避難道路
震災から10年以上が経った今でも、街中には当時の様子がわかる場所がたくさんあります。
その一つが浜町避難道路という高台です。
ここは津波の際に多くの方が避難した場所です。街から見上げてもあそこに避難できそうだと一目で分かるような場所でした。
高台へは、階段を登ってさらに坂道を登っていきます。そこでは街と海を一望できました。
この高台は、震災関連の映像でも度々登場する場所でもあります。
以前の街とは一変していますが、海上の緑色のクレーンなど当時の映像にもあったものなど見受けられるものもありました。
また、高台の近くにはRC造の復興住宅(マンション)が建てられ、そこも避難場所として使えるようにか、日常的に使える階段や少し広く避難時に集まれそうなスペースもありました。
[MAP]浜町避難道路
残存する津波避難ビル
高台からの当時の映像でも映っていた大きな建物が今でも存在しています。
そこは地上8階建のビルで、当時から津波避難ビルとして指定されており、そこに避難して助かった人もいたそうです。
この建物はずっと残っていますが、現在では周囲の地盤は嵩上げされているというのが顕著に現れていました。
当時の地盤レベルがこの建物の1階部分だったのですが、現状1階部分はピロティ状になっており、駐車場として使われています。
1階部分の外装・内装は剥がれていて、津波による被害の様子がそのまま残されていました。
現在でもこの建物は使われているみたいなのですが、道路に面したところは空きテナントに見受けられました。
また、津波による被害を受けた様々な街を見る中で、このように8階建レベルの建物があるところはほとんどなく珍しいと思いました。
[MAP]津波避難ビル
グリーンベルト(遊歩道)
震災以降に、新たに作られたのがこのグリーンベルト(遊歩道)です。
ここは堤防のように盛土がされており、海側にいる人が災害時に高台に避難できるよう設けられた道です。
24時間日常的な利用もできるようになっており、散歩をしている人やその途中にある公園で遊んでいる人も見受けられました。
そして、足の負荷を軽減するようにだと思いますが、地面がゴム製の素材で作られていました。
グリーンベルトから高台の避難ルートは、一度道路を渡って高台方面にいくのですが、その道路も再整備の際に嵩上げされた道路なので、海からの高さは保たれたまま高台側へ避難ができると思いました。
また、グリーンベルトから西側の工場の方を望むと2頭の鹿がいました。
自分のような観光客からすると、「なぜここに鹿が?」と思うような不自然さはありましたが、調べてみると日常茶飯事の風景のようです。
[MAP]グリーンベルト
釜石市民ホール TETTO
建築家による建物も見学してきました。釜石市民ホールTETTOはヨコミゾマコトさんの設計で2017年に開館しました。
目立つのはガラスの大屋根のかかったプロムナードです。とても洗練された建物でした。
エントランスロビーは2層吹抜けで上部のガラス窓から光が差し込んでいました。
また鉄板を曲げて作られた大階段もあります。
階段を支えるための柱は無く、手摺部の鉄板を2階の大梁に載せて支えていますが、鉄板は2階の腰壁にもシームレスに繋がっていて軽快さがありました。
2階ではテラスに出ることも可能でした。
建物内の天井には、一般的に軽量鋼製下地として使われるLGSがルーバーのように使われていたり、網入りガラスの波板が使われていたりしました。
ヨコミゾマコトさんは伊東豊雄さんの事務所の出身ですが、このガラスの波板は伊東豊雄さんが長岡リリックホールで使っていたものと同じなので、そのアイデンティティを感じました。
[MAP]釜石市民ホール TETTO
小島かふぇ
釜石市民ホール TETTOの横に小島かふぇというカフェがありました。都会的でおしゃれなカフェです。
近くにはイオンモールもあるのですが、このカフェには若者が沢山いました。
普段だったらありふれた風景だと思ってしまいそうですが、様々な被災地を巡っている途中でこのカフェに入って、賑わいが街を育てていくのだと再認識できました。
そんなことが頭を巡っていたなか、小島かふぇで食べたパンケーキは美味しくて旅の疲れを癒してくれました。
おわりに「日常と非日常を分けずに考える」
以上、釜石駅周辺の紹介でした。街を歩くことで発見は沢山あり、考えさせられることも多かったです。
中でもグリーンベルト(遊歩道)は参考になる復興まちづくりのあり方でした。日常は遊歩道という誰でも使える場所、そして使いたくなる場所に整備することで、災害といった非日常時に利用する時にそれが使い慣れたものであるということが第一ステップの安心につながると思います。
日常の延長に非日常(災害)があると思いますが、まちづくりにおいては分けて考えるのでなく、両側面からアプローチしながら考えるということが重要だと思いました。たくさん考えさせられた街歩きでした。
※この記事では建築士が建築的な視点も入れつつ紹介しています。