丘の上に建つ軽やかな建物「八代市立博物館 未来の森ミュージアム」

建築

はじめに「八代城跡から探る八代市の歴史」

八代市立博物館は熊本県八代市にあります。八代市は熊本市から電車で1時間ほど南下したところにあります。最寄りの八代駅から20分ほど歩くと急に商店街が現れ、さらには役所や総合病院などの都市機能が見られてきます。

ということは以前何かで栄えた名残があるということで、予想通りその先には八代城跡が存在しました。この「駅→市街地→城」の構図は覚えておくと色んな場所であてはまるので面白いです。

また事前にあまり調べないで行くと街の中にある要素からなんとなく街の構図が見えてくるというところも初めて行くところでは楽しめます。

八代城は八代市に築城された3代目の城で松江城とも言います(初代が古麓町の古麓城、2代目が古城町の麦島城です)。

この松江城は肥後細川藩の支城となり、細川藩家老の松井興長が1646年に城主となって、明治まで待つ池によって治められてきました。

現在は本丸の石垣と内堀が見られます。そしてその石垣には地産の石灰石に適した野面積みという自然の石を加工せずに使う手法によって積まれているのが分かります。

ただ、隅角部は強度が必要なため別の石による算木積みになっています。これらの情報は八代市立博物館の展示によって知ることができます。

城跡と博物館が近くにあるので、体験的学習のしやすい環境だと思います。

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くまもとアートポリス

この八代市立博物館は「くまもとアートポリス」の事業として建設されたものです。くまもとアートポリスは1988年から始まり、初代のコミッショナーが磯崎新さんで、現在の3代目コミッショナーを伊東豊雄さんが務めています。

事業の趣旨としては、建築や都市計画によって街を魅力あるものにしていこうというもので、熊本県全域でこの事業による建物が散見されます。

そのため街中で少し特異な建物があると、くまもとアートポリスによるものであることが多いのですが、結構事業者目線が強いような気はしてしまいます。

そして住民参加のプロジェクトにはしていないようです。実際に体験した感想で言うと、街にはアートというオブジェクトそのものというより、散らばるものを整えていく流れの方が必要だと感じました。

また、建物の隣には芦原義信さんの設計した八代市厚生会館があるのですが、こちらはアートポリスの一環ではなかったです。

丘の上に立つ軽やかな建物

建物の設計は伊東豊雄さんです。この博物館は伊東さんにとって初めての公共施設の設計だったようです。

敷地内に入ると、まずは隆起した地形が現れ、その上にステンレスの建物があり、丘の上の軽やかな構造体という印象です。この丘を作ったのは、前面(建物へのアプローチ側)に対する圧迫感を消すためなのです。

また建物の持つ軽やかさはステンレスという素材と、ループするヴォールト屋根、カーテンウォールのガラスのファサードによって表現されています。

ヴォールト屋根の構造は2本のフラットバーの間をトラスビームで繋いでいて、その間に座屈防止の母屋材が入っています。

一番上に設けられた楕円のボリュームは収蔵庫になっていて、パンチングメタルで覆われているため物質感は若干和らいでいます。

内部に見られる「動き」

内部はループしたヴォールト屋根とその間から光が差し込む様子が美しいです。エントランスホールは様々な形態が交錯する場所で、ガラスのエレベーターシャフトが視覚的に上下階をつないでいます。

また埋められた一階部分の常設展示室はRCの柱がランダムに配置されているのですが、ヴォールト屋根を受ける2階の鉄骨中はRC柱の同一軸線上にはないのです。

構造設計を担当した木村俊彦さんはこのズレを解決するために、RC柱の上に円盤を作ってその範囲内に鉄骨柱が乗るようにしています。

意匠設計の意図を汲み取った構造デザインがあってその処理の仕方を知るのは面白いです。また内部手すりは波打っていて、ここにも「動き」の要素が感じられました。

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おわりに「たまたま見つけた、くまもとアートポリス作品」

見学を終え、八代駅への帰りがけに街の風景を美しく映し出す建物を発見しました。「やつしろハーモニーホール」という建物で、こちらもくまもとアートポリスの作品です。

鏡面ガラスが傾斜していて前の道を歩きながら鏡に映し出された遠景を見ることができました。その景色がとても美しかったです。

また熊本市にはモニュメンタルなフォルムの熊本中央警察署がありました。このように熊本は発見を楽しみながら街を散策できる場所となっています。訪れる際には是非アートポリスとの出会いも楽しんでみてください。

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