はじめに「高級住宅エリアのまちあるき」
今回は渋谷区の代官山町・猿楽町・鶯谷町のエリアを歩き、建物を観察してきました。
下図は渋谷区のエリアマップになるのですが、代官山町・猿楽町・鶯谷町は南側の細分化された部分に位置します。
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【参照】https://minchizu.jp/tokyo/t-shibuya.html
このエリアは高級住宅街となっており、それは言われなくとも街や建物の雰囲気から感じ取れるくらいです。
後々気になった建物を調べてみると、より高級なものを作るための建築的なプロセスやその苦労を感じ取れたりしました。
それでは紹介していきたいと思います。
チャコット代官山
チャコット代官山は、代官山駅の北側にあります。
ここは元々、カシヤマ代官山が運営されていたところが一新され、チャコット代官山となりました。とは言ってもどちらも同じグループ会社です。
チャコット代官山はバレエを身近に感じてもらう施設として、1棟まるまるで運営されています。
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店舗ファサード
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1階の出入口
ちなみに階の構成は次のとおりです。
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建物内のフロアマップ
建築的に面白い建物でして、複数の箱がずれながら重なった形状になっています。
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複数の箱が重なったデザイン
このデザインを考えたのが、佐藤オオキさんの率いる”nendo”です。
nendoは基本設計とデザイン監修という立場で、そのデザインをもとに大成建設が設計・施工をしています。
そのユニークな形をどう成り立たせるのか、そのために今回採用しているのが「門型ユニット」という考え方です。
その門はSRCの壁柱とS梁付スラブで成り立っています。
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門型の壁柱は建物内にも現れている
この建物はそれら複数の門型で構成されており、平面図を見るとそれぞれの階を構成する門の様子がよくわかります。
【参照:近代建築2020年1月号】https://kindaikenchiku.meclib.jp/2001kindai/book/index.html#target/page_no=135
その結果として、外観は複数の箱が重なっているように見えるのですが、上手いのは箱の上に手すりが出てきていない点です。
箱の端部は腰壁のように立ち上がっているということが、屋外テラスを歩いているとわかります。
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屋外テラス
外観からは木質な雰囲気も感じられるのですが、これは外装材として天然木リブパネルが貼られています。
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外壁は木材リブパネル
材質はホワイトアッシュでウレタン塗装がされています。
敷地は2つの用途地域にまたがっており、また大半は20m第三種高度地区がかかっているので、建物最高高さは19.95mとなっています。
地下1階にはショップと併設してカフェがあるので、見学したらそちらで休憩するのがおすすめです。
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地下1階のカフェ
用途:商業施設(物販店舗・飲食店)、スタジオ(集会場)
竣工:2018年11月
階数:地上5階、地下2階
延床面積:2,464.72m2
用途地域:第二種住居地域、第一種住居地域
指定容積率:400%、300%
高度地区:40m高度地区、20m第3種高度地区
建築主:オンワードホールディングス
建築・内装デザイン監修:nendo
建築・内装デザイン:乃村工藝社、onndo
設計:大成建設
施工:大成建設
所在地:渋谷区代官山町14-18
プラウド代官山フロント
プラウド代官山フロントは、野村不動産によって開発された分譲マンションです。
建物の面する八幡通りを歩いていて一際目を引く建物でした。
というのも曲線を用いた平面計画で、外観にもそのうねりが反映されています。
デザインを担当したのがPDP LONDONで、建物のデザインコードとして次の3つを意識してデザインしているそうです。
この建物は、平面計画の自由度を高めるためにコアを構造部とした「スキット アミーバ」という三井住友建設のオリジナル構法で作られています。
用途:分譲マンション
竣工:2021年3月
階数:地上12階、地下1階
総戸数:74戸
延床面積:11,106m2
用途地域:第二種住居地域、第二種低層住居専用地域
指定容積率:400%、200%
高度地区:40m高度地区、第二種高度地区
事業主:野村不動産
設計:三井住友建設
施工:三井住友建設
所在地:渋谷区猿楽町11-3
サンローゼ代官山
サンローゼ代官山も八幡通りに面して建っているのですが、中に誘い込まれるような配置計画が特徴的でした。
中庭はサンクンガーデンになっており、そこに向けて店舗が面している様子が魅力的でした。
それは、安藤忠雄さんのローズガーデンを彷彿とさせるものがありました。
用途:商業施設、事務所
竣工:1992年4月
階数:地上4階、地下2階
延床面積:4,243m2
用途地域:第二種住居地域、第二種低層住居専用地域
指定容積率:400%、200%
高度地区:40m高度地区、第二種高度地区
建築主:住友信託銀行
設計:青島設計
所在地:渋谷区猿楽町11-6
フォレストゲート代官山
フォレストゲート代官山は八幡通りに面しています。
賃貸マンション・商業施設・オフィスが入った複合施設で、2023年8月に竣工予定です。
丘のように積み上がった建物の形は圧倒的に目を引き、そのデザインは隈研吾さんがしています。
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遠くからでも目を引くデザイン
フロア構成と断面構成は下図のとおりです。
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フロア構成【参照】https://www.forestgate-daikanyama.jp/residence/
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断面構成【参照】https://www.forestgate-daikanyama.jp/residence/
敷地内には八幡通りと代官山駅をつなぐ小道があります。
その小道も含むランドスケープはSOLSOが担当しています。
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ランドスケープ計画【参照】https://www.forestgate-daikanyama.jp/residence/
また、HPには住戸プランも公開されています。
超高級マンションですが、どのようなプランニングをしているのか見られるのは非常に参考になります。
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HPに公開されている住戸プラン【参照】https://www.forestgate-daikanyama.jp/residence/
中には200m2超えの部屋もあり、非常に魅力的です。
・200m2超ということは建築計画的には区画が発生する、というところがポイントです。(全体の計画が見えていないので何とも言えませんが、100m2区画も発生しているかもしれません。)
用途:賃貸マンション、商業施設、オフィス
竣工:2023年8月(予定)
階数:地上10階、地下2階
総戸数:57戸
延床面積:約21,096m2
用途地域:第二種住居地域、第二種中高層住居専用地域
指定容積率:400%、300%
高度地区:40m高度地区、30m高度地区
事業主:東急不動産
設計:隈研吾建築都市設計事務所(基本設計)、竹中工務店・東急設計コンサルタント(実施設計)
施工:竹中工務店
所在地:渋谷区代官山町20(未定)
ラ・トゥール代官山
ラ・トゥール代官山は超高級賃貸マンションです。平均の住戸面積は240m2になります。
この敷地には元々、外国人の富裕層に向けた賃貸時マンション「エバーグリーンパークホームズ」が建っていました。
その敷地で一団地認定を使ってラ・トゥール代官山は計画されています。
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マンションの側面から見る
とにかくハイスペックな仕様で、セキュリティに関しては「5重」になっています。
その一つとして、門番が24時間いるのです。その名の通り門番で、敷地の前を通りかかった時はその厳重さに圧倒されました。
また、駐車場は総戸数139戸に対して190台停められる計画になっており、中には屋内専用ガレージの付いている住戸もあるほどです。
用途:賃貸マンション
竣工:2010年9月
階数:地上7階、地下1階
(※基準法上地上6階、地下2階)
総戸数:139戸
敷地面積:15,723.11m2
延床面積:49,987.99m2
用途地域:第二種低層住居専用地域
指定容積率:200%
高度地区:第二種高度地区
事業主:住友不動産
設計:日建設計
施工:西松建設
所在地:渋谷区鶯谷町13-1
センチュリーフォレスト
センチュリーフォレストは、先述のラ・トゥール代官山の隣に立つ同規模の建物です。
ラ・トゥール代官山と合わせてこの2棟の存在感はそうそうたるものです。
そして、センチュリーフォレストも一団地認定を使って計画されています。
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公開空地となっている広い歩道
また、本来は高さ制限が12mの敷地ですが、優遇制度の適用により18mまで緩和されたということが、鹿島建設のHPに書いてありました。
この計画を調べている中で、一団地認定(一団地の総合的設計制度)と総合設計が混同されて書かれているものが多いのが気になりました。
また、事業者・設計・施工は全て鹿島建設ですが、設計監修にアーキサイトメビウスも入っています。
用途:分譲マンション
竣工:2011年8月
階数:地上5階、地下3階
総戸数:244戸
敷地面積:11,005.53㎡
延床面積:32,094㎡
用途地域:第二種低層住居専用地域
指定容積率:200%
高度地区:第二種高度地区
事業主:鹿島建設
設計:鹿島建設
施工:鹿島建設
所在地:渋谷区鶯谷町14-1
Building U75
Building U75は個人住宅と店舗の複合ビルです。
建築的なデザインが気になり調べてみると、アーキテクチャーフォトでも特集されていました。
更新を考えた構造形式も面白いですが、外観の「色」がいいなと思いました。
絶妙なグリーンがすごく効いていました。外装は塗装とタイルですが、塗装部はコンクリートに塗装ではなく、外断熱に塗装をしています。
用途:住宅、店舗
竣工:2022年4月
階数:地上5階、地下1階
敷地面積:91.75㎡
延床面積:363.33㎡
用途地域:第一種住居地域
指定容積率:300%
高度地区:20m第三種高度地区
建築主:個人
設計:篠崎弘之建築設計事務所
施工:永田建設
所在地:渋谷区鶯谷町7-5
WHITE GLASS COFFEE
WHITE GLASS COFFEEは、ロイヤル・アーツが運営するカフェです。テラスや植栽が魅力的で気になったので入りました。
このカフェは、ビジョナリーアーツ東京校の1階にあるのですが、この建物は手塚建築研究所が設計しています。
2005年に竣工した建物ですが、店舗の賑わいもあり、古さを感じさせない建物でした。
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今どきな外観
カフェは木製サッシの大開口から外の植栽が目に飛び込んでくるので、とても癒される空間でした。
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カフェの内観
おわりに「高級住宅地は見所がたくさん」
以上、代官山町・猿楽町・鶯谷町の街を歩いて気になった建物の紹介でした。
高級住宅地ということもあり、街の厳かさを感じました。そして見所が多く、まだまだ書きたいくらいです。
超高級マンションが多いのもこのエリアの特徴ですが、いつか見学できるといいなと思っています。
※2023年10月19日に開業しました。