はじめに「都市計画マップを片手にまちあるき」
今回は東京都杉並区の荻窪駅から高円寺駅まで、歩きながら街を観察してきました。
私は建築士ですが、一般的に建築の人が行う”まちあるき”というのは、歴史的な建築や、有名な建築家が設計した建物を見ることを目的とする場合が多いです。
しかし今回は少し毛色を変えて、都市計画マップを見ながらのまちあるきというのをしてみました。
都市計画マップというのは、建築をやっている人であれば馴染みはあると思いますが、一般の方は全く見たことがないという方が多いと思います。
現在はそれぞれの行政で独自のマップを作っており、そのほとんどはネットからアクセスできます。
荻窪駅前で再開発の可能性はある?
まずは荻窪駅からスタートし、北口に出ました。北口には、タウンセブンやルミネ荻窪という駅前の大型施設があります。
そのエリアは、調べてみると高度利用地区に指定されていました。
さらに調べてみると、杉並区では高度利用地区は次の2箇所だけが指定されていました。
・荻窪駅北口高度利用地区
・新高円寺駅前高度利用地区
この高度利用地区に指定されている、タウンセブン・ルミネ荻窪のエリアの都市計画情報を調べてみると、次の通りでした。
杉並区では、商業地域でも高度地区がかかっているケースが多いのですが、このエリアにおいてはそれもなく、規制が強くないことが分かります。
そうすると、今後再開発の可能性が高いのではないかと気になりました。ちなみに荻窪駅北口が高度利用地区に指定されたのは昭和53年のようです。
しかし、よく調べてみると市街地再開発事業はすでに行われていたということが分かりました。タウンセブンやルミネ荻窪は「荻窪駅北口地区市街地再開発事業」によって作られていたのです。
そのため、高度利用地区は以前の再開発を行うためのものであることが伺えました。
住みやすい低層住宅地は都市計画の規制によるもの?
荻窪といえば、住みやすい街として評価が高いです。
駅北側の幹線道路である青梅街道沿いは商業地域になっていますが、その背後(北側)には第一種中高層住居専用地域が広がっています。※一部近隣商業地域もあります
さらには高度地区がかかっていることもあり、建物の高層化がしにくいエリアになっています。
そのため、用途地域的にはもっと中低層のマンションが建っても良さそうですが、規制により戸建住宅が多いというエリアになっています。
そして、高度地区がかかっているとあからさまに建物形状に反映されます。
それは斜めに切り取られた形状になるのですが、容積率を最大化しようとすると、斜めにせざるを得ない時が多分にあるというのが建築側の都合なのです。
歩いていると、たまたま建設中の物件を発見しました。クレヴィア荻窪という伊藤忠都市開発による分譲マンションです。
ここは、敷地の北側が第一種中高層住居専用地域(第二種高度地区)で、南側が商業地域(第三種高度地区)になっています。
仮囲いに貼ってあったパースは、高度地区の斜線によりカットされたと思われる屋根になっていました。
建物の大きさで分かる用途地域の境目
荻窪駅から阿佐ヶ谷駅の方へ歩いていくルートのほとんどは第一種中高層住居専用地域でしたが、突如高層マンションが現れてきました。
つまりその辺りが用途境であり、調べてみると阿佐ヶ谷駅周辺の商業地域に差し掛かっていたのでした。
また、阿佐ヶ谷駅の北口は商業地域であるものの、木造密集地のような様相で居酒屋などが密集しているのが特徴的です。
それは古き良き風景なのだと思いますが、経済的に考えるとこの立地で建物を高層化しないのは勿体無いです。
そこで阿佐ヶ谷駅北口で再開発などの計画がないか調べてみると、阿佐ヶ谷駅北東地区土地区画整理事業という名称で土地区画整理事業の予定がありました。
しかしそれは気になっていた駅北西側(居酒屋などの多いエリア)ではなく、小学校などのある駅北東側(約2.7ha)での整備事業らしいです。
その土地区画整理事業地には、阿佐ヶ谷駅北東地区地区計画という名称の地区計画もかかっています。
下の図は、地区計画の区域を示したものになります。
建築制限の具体は、地区計画における地区整備計画を見れば分かりますが、駅を南北に貫通する中杉通りに面する街区は、60m級の建物が立つことが許容されていることが分かります。
対して、居酒屋の多い北西側でも今後手は加えられるはずで、何か水面下での動きがあるのか気になったところでした。
謄本を取得すれば何か見えてくるのかも知れないですが。
阿佐ヶ谷パール商店街から青梅街道へ
そして阿佐ヶ谷駅南側へ行き、阿佐ヶ谷パール商店街から一本東側へ入った道を歩いて行きました。
パール商店街の沿道は商業地域に指定されており、その一本入った東側は第一種中高層住居専用地域や第一種低層住居専用地域になっています。
荻窪から阿佐ヶ谷まで点々と用途地域を調べてきましたが、高度地区に指定されているところが多く、それはどこか執念を感じるものでもありました。
さらに南下していくと、東京メトロ丸の内線が地下に通る青梅街道に出ます。
この沿道は商業地域ですが、やはり第三種高度地区がかかっていました。
少し建築計画的な話ですが、そうなりますと青梅街道の南側に敷地があるからといっても、商業地域でも高度地区がかかっていては新築計画をする上で油断はできないのです。
商業地域のマンションでしたら14、15階くらい建てたいものですが、通りを見ていると11階程度までしか建てられていないようでした。
例えば、新高円寺の方にあるデュオステージ新高円寺なんかは青梅街道側が11階で裏側が12階となっており、高度斜線に切り取られた形状となっていました。
ちなみに杉並区役所の向かいに、プラウド南阿佐ヶ谷という14階建ての分譲マンションが建っています。
そこは同じ商業地域なのですが、高度地区はかかっておらず条件の良いエリアです。
容積率も異なるので一概には言えませんが、やはり高度地区がかかっていなければこのくらいの高さの建物になりうるということです。
これまで高度地区が何度も出てきましたが、下記に東京都の高度地区による制限内容を載せておきます。
ルック商店街・住宅街を歩き、高円寺へ
そして青梅街道からルック商店街に入り、高円寺駅の方へ向かいます。
ルック商店街は商店街という名からも近隣商業地域になっています(※駅に近づき高円寺2丁目が終わるくらいで商業地域に変わります)。
また、ルック商店街の西側には第一種低層住居専用地域が広がっており、さらには不燃化推進特定整備地区に指定されている範囲も広いです。
第一種低層住居専用地域では高さ制限が10mなので、戸建てが多く、マンションがあっても半地下風になっていたりと、その用途地域らしさを感じました。
また、商店街を横切る桃園川緑道があることもこのエリアの特徴の一つです。
元々桃園川が流れていたところを昭和40年に下水にして暗渠とし、公園として整備したようです。
幅員の狭さといい、見るからに暗渠然としていましたが、緑道という名前からも緑豊かで落ち着いた気持ちになる良い道だなと思いました。
おわりに「奥深い東京の街」
以上、荻窪から高円寺までのまちあるきでした。用途地域マップを片手に街を歩いていくというのも結構面白いです。それは風景の切り替わりであったり、街の切り替わりが都市計画と絡んでくるからだと思います。
歩いていると「なんでこのような街になっているのだろう」と疑問に感じることも多いです。いつも歩いている街でも、その成り立ちや現在の姿について改めて調べてみると発見が多いと思います。特に東京は奥深く、そして歩き甲斐のある街だと思いました。
※都市計画についてもっと知りたい場合は、次の記事でおすすめの参考書を紹介しているのでご覧ください。