海抜12mの敷地
「海の博物館」は三重県鳥羽市にあります。
鳥羽駅からバスが出ているのですが、一時間半に一本くらいなのでなかなかにアクセスしづらいです。
こういう時は徒歩で行くという選択肢を取ることが多いのですが、地図で計測してみると2時間かかるということなのでさすがにバスにしました。
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自然環境を誘い込む分棟配置
この建物の設計は内藤廣さんです。複数ある建物は分棟配置されており、敷地内のレベル差や水面が上手く機能しています。
分棟配置はそれぞれをどう繋げるか、どのくらい離すかがかなり大事で、今回は博物館というプログラム上順路もキーポイントになってきます。
「海」という環境に近く、石や木など自然と密接する中でどんな意味合いを持たせるのかという点では、海の博物館は一つ一つが決して独立しない集落的なものの中に自然環境を誘い込んでいる良さがありました。
完成から26年という年月が流れて
海の博物館は1992年に建てられましたので26年が経っています。外壁の杉板の塗装は少し剥がれていましたが、色ムラには独特の味があります。
経年劣化とはある種の諦観として考えられることが多いですが、時間とともに味が出てくるというこのような状態が一番いいです。
木架構を照らすトップライト
展示棟の屋根は大断面の集成材で出来ていて、頂部がトップライトで内部を明るく照らします。
ガラスそのままだと均斉度が低下したりグレアが生じるためか、薄幕がかけられて光自体は柔らかなものになっています。
またトップライトがあることでアーチ状の梁など構成部材がひときわ強調されています。
構造上必要なものを最小限にして天井を装飾ではなくて架構のみにしているという純粋な美しさを感じました。
時とともに相対的価値が増す収蔵庫
展示棟のA棟、B棟はこのように木造屋根ですが、収蔵庫はRC造です。
この収蔵庫の空間はぜひとも色んな人に体験してもらいたいです。
この場所にしかないものが全て「時間」という次元に変換されているように思いました。
自然に囲まれているため、葉っぱの匂いがほんの僅かに混じった空気と外から聞こえる鳥のさえずり、RCに囲まれたひんやりとした温度と、三和土により整えられた湿度(湿度に関しては収蔵している木造の船自体の効果もありそうです)、これらが五感に訴えてきます。
それらの総体としてここにしかない時間を作り出しているように感じられました。
内藤さんが「時間の翻訳」ということを設計の際に意識していることを知っているため、感じ方が主張に引っ張られている可能性も無きにしもあらずですが、感動したということは紛れもない事実です。
また収蔵庫の構造はRCですが、コストや耐久性を考慮してPCa(プレキャストコンクリート)で作られています。
それに加えて高強度コンクリートでもあり、ポストテンションで応力補正もしていることもありかなりの強度です。
26年経ちましたが未だ衰えるところがありません。
内藤さんは「時に耐える建築を作りたい」と言っていますが、こういうことなのだと身を以て体感させられました。
100年は余裕で持ちそうです。
あとは運営をどうするか、集客をどうするかが課題になってきそうです。
職員の方がそんな話をされているのを小耳に挟んでしまいました。
場所も建物もいいけれど人が来にくい、でも来た人にとっての建築空間の良い原体験となり得るこの場所の価値が恒久的に残ればいいなと思います。
博物館の展示について
博物館としての展示内容は海に関わること全般です。
以前と比べて減少してしまった海女さんの活動、神事、生き物、漁業、道具などなど、相当の貯蔵数なだけありかなりの情報量です。
昔のかなり大きい網を引っ張って100人がかりでやっていたという模型が印象的でした。