はじめに
2019年4月に石川県に行ってきました。建物見学をメインとした旅ですが、石川県には見るべき建物が沢山あります。金沢市然り、かほく市、加賀市にもあります。
中でも金沢市は、金沢21世紀美術館と、この鈴木大拙館が有名です。
鈴木大拙館の設計は谷口吉生さんですが、金沢では谷口吉生さんとその父、谷口吉郎さんの記念館が建設中で、そちらも見ることができました。
表側と裏側でかなりレベル差のある敷地でしたので、完成がどうなるのか非常に楽しみです。
回廊と3つの庭
鈴木大拙さんは仏教哲学者で、禅文化を世界中に広めた人です。そして鈴木大拙館は来館者が思索にふけるための場所として設計されています。
”思索”とは物事を順序立てて考えることですが、その論理性はこの建物内の回廊が示す順路、そして途中に現れる3つの庭が表していると思います。
思考は必ずしも一本の筋が通っているだけでなく、その途中途中に体験や知識的な情報からくる濃淡があるはずで、それが庭に暗喩的に現れているのだと思っています。
玄関に入り、受付を抜けるとまずあるのが内部回廊で、そこからは「玄関の庭」が望めるようになっています。
そして更に進むと展示空間、学習空間がありますが、学習空間の先に「露地の庭」(そこは撮影禁止)があります。
そして思索空間へと向かう外部回廊があり、「水鏡の庭」が広がっています。
水鏡の庭は「静か」、「自由」という鈴木大拙さんの精神を表した空間で、外部回廊(D:1,500mm,H:2,300mm)、犬島産錆石の壁(H:4,200mm)、RC打放しの壁(H:1,800mm)、生垣によって四方を囲われています。
そこに「思索空間」が水面に浮かぶように立っていて、中には畳の張られたベンチがあります。
そこで様々な方面を見ながら、様々な素材を感じながら、自然が奏でる音を聴きながら、何かと向かい合うわけです。
そこに明確な”何か”は存在しなくて、無から発生するのを待つだけの時間を受け止めてくれる役目を持っているのが、この思索空間です。
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中と外の関わり
鈴木大拙館の素晴らしさは、中と外の関わりにあると思います。それは、世界を作り出すための背の高い壁による囲いや、回廊という内外の景色を絡みとる装置があることが効いているのだと思います。
中と外の関わりを作るということは、完結性を求めないことでもあるのではないかと思います。そこの関わりが無いということは、思索という点においては、考えを解放する方面を失う、ということでもあります。
その関係性が密実に作られた空間に身を置くと、自然と思索するものなのだと思います。
環境をどう作り出すか
鈴木大拙館は周辺の文化施設と散策路で結ばれており、アプローチがひとつではありません。
そこに建物内だけで完結しない回遊性が付加されています。回遊性は人を運び、人と自然を繋ぎ、人は外界と建物内を繋ぐメッセンジャーになります。
なので建築はそこにある環境を活用するために、内側を見せる(内外の関係性をつくる)必要があるのだと思います。
そうやって空気の流れのようなものを作ったり、滞留させたりする行為も建築と言えるのではないかと思います。
おわりに
建物見学を終え、帰ろうと外に出ると、清掃のおばちゃんが「さっきまで木にウグイスがいたよ」と教えてくれました。
それもまだ鳴き声が上手くないようで、「ケキョッ」と鳴くのだそうです。
意識して自然に耳を傾けると、目で見る以上に伝わってくるものが多いのでしょう。忘れかけていたことを思い出さされたような感覚でした。