その場所に恒久的に存在する建物のデザイン「安曇野市庁舎」

建築

はじめに

20194月に長野県安曇野市に行ってきました。安曇野にある内藤廣建築と言えば、安曇野ちひろ美術館、そして安曇野市庁舎です。

しかし、美術館に行くということに気持ちが入りすぎて、恥ずかしながら市庁舎もあるということをすっかり忘れていました。

なぜ気がついたかというと、美術館に行き受付の方と話をした際に、「建築でしたら、この後はやっぱり市庁舎に行くんですか?」と聞かれたことがきっかけでした。

瞬間的に思い出したため、「市庁舎?はて?」とならずに済んでよかったです。

安曇野ちひろ美術館を見終わり、市庁舎に向かおうとするも電車の本数は少なく、1日の中で様々な建物を見るには電車の時間と見学の時間を上手くコーディネートしなくてはならないのが地方の旅。

最寄りの駅から徒歩15分程度の距離ですが、予定を挽回しようとすると次の電車に乗るためには3分程しか見学時間がないことが分かりました。

チラッと見て終えようかと悩んでいたら安曇野市庁舎に到着しました。そして予定なんて狂わせて当然とばかりに、気付けばがっつりと建物見学を始めていたのでした。

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従来的で堅実な構成

安曇野市庁舎は古谷誠章さんが審査委員長を務めるコンペで、内藤廣さんの事務所を中心とした、地元の設計事務所との協働で設計を行う、「内藤・小川原・尾日向設計共同企業体」が選ばれました。

この市庁舎は4階部分がセットバックした直方体のボリュームという、簡潔な形をしています。

それは従来的とも言える純粋な形ですが、デザインの面白さというものはこの建物に求めていないと内藤さんはおっしゃっていました。

というのも、そういうものは短期的に消費されるものであるから、市庁舎のような恒久的に存在する建物はそれ相応のデザインの在り方があるというのです。

確かに面白さは継続が難しく、ただただアイコニックな存在を示すだけのものになり兼ねないです。

であれば市庁舎という建物に求められるのは面白くなく親しみやすいという一見矛盾したような造りであるのかもしれません。

そこら辺の時間に耐える建築への考え方は内藤廣さんらしく、地元という自分が共に生きてきた場所に作ることを地元民としてどうあるべきかという最も近い視点で捉えられる小川原さん、尾日向さんという人たちが加わることで、安曇野市庁舎はより洗練された建物になったのだと思います。

建物内を巡回する

1階ロビー

エントランスを抜けると、大階段そして広いロビーに窓口があります。

天井や壁にはふんだんに長野県産のカラマツが小幅板で使われています。

カラマツという素材は節が多いのですが、このように小幅板で使うと、その節による不揃いさを弱めることができます。

また、建物はプレキャストコンクリート造(PCa)、一部鉄骨造、RC造で、PCaはそのままあらわしで使われています。

柱梁の接合部分からもPCaであることが分かります。さらには梁にはポストテンションがかけられていて、その構造の処理は内藤建築らしいです。

階段は最上階までの吹抜けになっていて、天井はカラマツ無垢材のルーバーで、トップライトが入ってきます。

階段手すりに注目してみると、木材とスチールでできていることが分かります。

手摺と縦桟が木材(ナラ集成材)で他がスチールです。細かいところですが、集成材の縦桟は、富山県美術館ではアルミキャストで同じような断面で作られていました。

内装にカラマツがふんだんに使われていますが、4階の休憩スペース(ラウンジ)は使われてなく、そこだけがとってつけたかのような印象の空間になってしまっていたのが少々残念でした。

屋外テラスにも面していて開放的ではあるのですが、物音の残響が耳に居座り、そしてどこか排他的な感じがありました。

機能を明確に分離するためなのか、そこの真意が気になりました。

屋外テラスからラウンジを見る

おわりに

危うく安曇野市庁舎を見ずに安曇野を立ち去るところでしたが、非常に堅実な建物で、新しく立てる建物であってもこのような堅実さがあって良いのだと、思わせてくれる良い事例でした。

街の中核はやはり堅実であること、そして新しく作るのであればその中に1日を過ごす人、毎日働く人のための心地よさのデザインを含ませることは大切だと感じました。

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