はじめに「長岡にビューーン」
新潟県長岡市に行ってきました。
建築をやっている人ですと、長岡と言えば隈研吾さんが設計したアオーレ長岡がまず浮かぶのではないでしょうか。
以前長岡に行ったことはあったのですが、なぜまた行ったのかと言いますと、たまたま行き先がそこに決定されたからです。
JR東日本の企画する「どこかにビューーン!」によって長岡に決まったのです。
これは行き先候補が4つ提示されて、その後1箇所に決定するという、ドキドキとワクワクを楽しめる良い企画です。
今回の4つの候補は仙台、秋田、長野、長岡でしたが、その中で選ばれたのが長岡でした。
どこに行くことになるのかは運ですが、一期一会を楽しむ旅はランダム性のある行き先選びから始まっているのかもしれません。
長岡には行ったことはありましたが、きっと違う側面も発見できると思い旅してきました。
名建築を見て回る
旅行をしたからにはそのエリアの建築を見ない訳にはいきません。今回見た名建築は次の2つです。
・アオーレ長岡
・長岡リリックホール
それぞれ紹介したいと思います。
アオーレ長岡
アオーレ長岡は隈研吾さんが設計した市庁舎とホールの複合施設です。コンビニも入っています。
長岡駅直結でペデストリアンデッキで繋がっているのですが、立体的な回遊動線が魅力的です。
全体の印象としては隈さん特有の木板貼りが目に止まりますが、「部屋」と「道」の組み立て方が上手いです。
道はゆとりを持った「たまり」が作られているので、様々な空間に触れることができます。隈さんは「ナカドマ」と言うキーワードを設定しています。
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「たまり」のある空間
建築学生は授業でアオーレ長岡を勉強すると思います。様々なアプローチや動線、人々の視線の行き交いは建築を構成していく上で意識するものですが、アオーレ長岡はその良い事例だと思います。
市役所の窓口が吹抜けになっており、そこを上から見下ろせるような場所もあります。
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奥の吹抜けは市役所となっている
市役所の床は土間で、そのラフさがどこか安心できるようでした。
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土間っぽい市役所の床
そしてユニークだと思ったのが”自動ドア”です。
自動ドアは通称エンジンケースがありその中にレールなどが入っているのですが、ケースがなく剥き出しで、方立部分はガラスになっていました。
気密性は高くないですが、意匠性は抜群でした。
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自動ドア
これぞ建築家の設計する建物という印象でした。
長岡リリックホール
長岡リリックホールは伊東豊雄さんの設計した建物で、1996年に開館しました。
小さい丘の上に立つ様子は、同じく伊東豊雄さんの設計した熊本の八代市立博物館(1991年)を彷彿とさせるものでした。
ここは建物内外でコンサートができるようになっており次の3つがあります。
・階段状になっている野外コンサートスペース
・屋内の700人収容の大ホール
・屋内の450人収容の中ホール(シアター)
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野外コンサートスペース
建物へのアプローチとして、アーチ状の半屋外空間が建物に向けて長い距離伸びていき、建物の湾曲した屋根と一体的に繋がっています。
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アーチが建物へと繋がっていく
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アーチの中は特別感のある空間になっている。
建物は深い軒を下ろし、落ち着きのある光を内部に届けています。
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建物内から外を見る
また楕円の吹抜けがあるため、建物の入り込んだ位置でも明るく、求心的な役割を果たしています。
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ガラスの吹抜け
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吹抜け周りは一息つける場所となっている
行ったのはイベントのやっていない日でしたが、ロビーは一般開放されていて、ベンチに座って休憩したり自由に寛げるようになっていました。
少し休憩をさせてもらったのですが、勾配天井の強弱や光の濃淡など変化のある空間だなと思いました。
そしてそれがより心地よく感じました。
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気軽にベンチで休めるようになっている
コンサートホールの出入り口は波板ガラスの壁になっていますが、現代の建築ではコスト面を懸念して使わなさそうです。
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波板ガラス
長岡のまちあるき
街を歩いていると発見するものがたくさんあります。
特に旅先では様々なものが新鮮に見えて好奇心をくすぐります。長岡で気になったものなどを紹介したいと思います。
茶色い道路
駅に着いて外に出てまず思ったのが、道路が茶色いということです。
工業地帯のような茶色さです。たまにこのような道路はあるような気がします。
しかし改めて道路が茶色い理由を考えてみようと思いました。雪国であることと何か関係していそうな気がしました。
その答えは、道中で寄ったカフェの店員さんが教えてくれました。
それは雪が積もった時に溶かす水として温泉の水が使われており、それに含まれる成分が道路を茶色くしているのだそうです。
長岡の方では見慣れた風景らしいですが、観光客にはよく聞かれるそうです。
これは地域の個性でもあると思います。
建築士としては、この街の風景を建築に引用してみたくなるものだと思いますが、先ほど紹介した隈研吾さんが設計したアオーレ長岡の床も、長岡の道の色を引用したものかもしれません。
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土間っぽい市役所の床
朝ご飯のカフェ
長岡に着いて、駅近くのyobukodoriというお洒落なカフェで朝食をとりました。
駅の西口に下りると建物はあるものの正直閑散とした雰囲気で、それは地方都市の未来を憂いてしまうくらいのものだったのですが、そんな街に存在するオアシスのようなカフェでした。
カフェは2階にあるのですが、店舗の目の前に行くまでは「こんなところにカフェがあるのか」と思うような古びれた感じでした。
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カフェの建物
ですが、2階に着くと木製で西洋テイストの扉があり、異質な存在を示していました。
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カフェの入口
そして中に入ると、温かみのあるアットホームな空間でした。
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カフェの中(出入口から店内を見る)
特徴的なのが窓一面のカーテンです。天井高が2.7mくらいあると思いますが、その分カーテンも存在感が強いです。
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存在感を示すカーテン
水色がかったその色が室内に柔らかい光を届けていました。
カーテンを設けるのはとても良いデザインだと思いましたし、殺風景な街を直接見せるのではなく、抽象的な光として表現しているところが上手いなと思いました。
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カーテンが殺風景な街を抽象化する様子
新築マンションを見る
駅の近くに、タカラレーベンの新築マンションがあったので見に行ってみました。
外観は東京にもあるようなデザインされたものでしたが、長岡という地域の特徴がどこかに現れていないか注目してみました。
駐車場の考えはどうやら東京とは異なるようで、積雪対策として全ての駐車場に屋根がかかっているのです。
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屋根のかかった駐車場
さらには積雪荷重が大きいことを思わせるかのように、屋根も強固に作られています。例えば、屋根の上に車が載ったとしても問題なさそうに見えました。
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フレームのしっかりした駐車場の屋根
また、都市計画の観点からもこの場所を調べてみました。
新築マンションは道路を挟んで2棟あるのですが、北の棟は近隣商業地域で南は準工業地域です。
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北棟
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南棟
さらに南棟側は大規模集客施設制限地区となっていました。
旅館
今回の旅では、長岡の寺宝温泉という風情のある旅館に泊まりました。
建物内は老人ホームをコンバージョンしたかのような作りでしたが、温泉が男女共にあり炭酸泉のお湯はとても気持ちよかったです。
また、朝食、夕食のどちらもお部屋で食べましたがとても美味しかったです。
調べてみると、ここの食事は他のところで作って、宿まで運んできているようです。
リーズナブルに泊まれる旅館でしたが、その満足度は高級ホテルにも劣らないものでした。
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寺宝温泉の外観
旅館までは歩いて行ったのですが、長岡駅からは直線距離で6kmほどあります。
6kmも歩いていれば長岡の街並みを存分に味わえるものです。
広大な信濃川にかかる橋を渡り、畑の間をひたすら歩き宿に向かいましたが、大通りはどの街にもあるような大型店舗の連ねる風景で、それとは対称的に畑や公園、学校はその広さや子供たちの開放された様子が都会とは違って魅力的に映りました。
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道中にあったスタバ(一般的な風景)
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道中の大自然で広大な風景
日本酒の酒蔵と摂田屋の風景
長岡のお酒では吉乃川という日本酒が有名で、とても美味しいです。
日本酒が美味しい地域だけあり、長岡出身で日本酒の美味しさを世界に広めようと活躍している人もいるみたいです。
日本酒は普段食べるお米とは違い、日本酒用のお米が作られるのですが、そういった日本酒の全般的なことについて学べる、吉乃川ミュージアムにも行ってきました。
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吉野川ミュージアム
ここは摂田屋という酒蔵の集まった地域にあり、周囲には木造で木板貼りの建物が多くあり街の風景となっております。
また、江口だんごという団子を中心とした和菓子屋さんもその一角にあり人気です。
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江口だんご
摂田屋は長岡駅から南へ一駅行った宮内駅の近くにありますが、意外と穴場で観光におすすめです。
おわりに「意図しない場所で出会う楽しさを求めて」
以上、長岡での旅の紹介でした。
今回はJR東日本の「どこかにビューーン!」という企画でたまたま長岡に行くことになりましたが、このように自分の意思で決めないでどこかに行くというのも面白いです。
目的はなくても楽しいのが旅です。長岡はポテンシャルの高い街なので、観光なども含めた都市間競争でも高いレベルで戦っていける街だと思いましたし、それをより魅力的に演出できる余地を持った街だとも思いました。
※この記事は建築士が書いているため、建築視点の内容が多いですが、そんな視点も新鮮に受け取って読んで貰えると嬉しいです。