はじめに「春の旅」
2019年3月末から4月にかけて、北陸地方を中心とした建築旅に行ってきました。それまで北陸はあまり行ったことがなく、初めて行く県が多く、見たい建物も沢山ありました。
春という旅のしやすい気候の中で、晴れている日も多く、快適な旅を送ることができました。春というのはなんだか目に映る景色が少し違うような気がするのです。
それをなんと表現したらいいのか分からないでいたところ、村上春樹さんの「1973年のピンボール」という小説で丁度いい形容がされていました。
「春特有の不透明なヴェール」まさにそれです。特に朝方や夕方は、そのヴェールが分厚くかかっているような気がするのです。
話が逸れましたが、ともかく、心地の良い気候であったということです。
[adchord]
国内旅への安堵、計画的無計画をベースに
北陸旅に出る前は海外に行っており、違う文化の中で自分の体を順応させようと、どこか神経が張っていたような気がします。
普段の当たり前の生活はどこにもない、それはとても新鮮で海外に行く楽しさであり、短い期間の貴重な体験でした。その後、いざ今回の北陸旅を計画しようとするも、心配するべきところが全くないということに気がつきました。
まず日本語で話せますし、コンビニもあちこちにあります。宿は別にこだわらなくても一定の清潔さは保たれています。強いて言えばSuica(交通系ICカード)が使えないところがかなり多いというくらいです。
なので、海外ではまあなんとかなるという気持ちでしたが、国内はそれを通り越して、どうにでもなれくらいの気概でした。しかし、見たい建物はたくさんあります。どのように県を巡っていくかは大体は自ずと決まりますが、すべてきちんと見られるか、という点である程度計画は必要です。
なので、おおよその予定と泊まる都市の検討をつけておいた上で、目の前の旅の方に専念することにしました。
青春18きっぷを有効に使うために
今回の旅で、初めて青春18きっぷというものを使いました。よくある誤解で「青春」と名の付くものであるため年齢制限があると思われがちですが、年齢制限はなく誰でも使用することができます。
5日分の乗車で、料金が11,850円です。つまり1日当たり2,370円でJRの電車が乗り放題になるわけです。
都内の移動で1日2,370円も使うというのは困難でありますが、地方を周遊するような旅の場合は途中下車もしやすいので非常に有効なきっぷです。
販売期限、使用期限があるというのが少々難点ですが、今回の旅は春期間に含まれていたため、難なく使用することができました。
青春18きっぷを買うに当たって、駅の窓口で購入する前に念のため金券ショップをいくつか回って見てみました。すると少し安いものを発見し、11,000円という850円分安い価格で買うことができました。節約は旅行前から始まっているのです。
そして10日間ある旅の内、5日分ある”きっぷ”をどの日に使用するかがポイントです。
長距離に移動するときに使用するのはもちろんですが、近場だけを移動する場合は使用しない方がいいため、この区間で使用しようという計画は立てておいた方がいいと思います。
ときには、レンタサイクルで見たい場所を駆け巡る日もありました。電車での移動時間も2時間や3時間は当然で、一番長い時で5時間ということもありました。それでも本を読む時間になるため、そこまで苦痛ではなかったです。
[adchord]
見た建物リスト
1日目から順番に見た建物を紹介していきます。細かい内容については、それぞれの記事にリンクさせてありますので、そちらをご覧ください。
1日目(東京–茅野–長野–松本)
・神長官守矢史料館(設計:藤森照信)
・高杉庵、低過庵、空飛ぶ泥船(設計:藤森照信)
・茅野市民館(設計:古谷誠章)
・東山魁夷間(設計:谷口吉生)※行ったが改修中
・長野市芸術館(設計:槇文彦)
3日目(富山)
・富岩運河環水公園(設計:仙田満)
・富山県美術館(設計:内藤廣)
・TOYAMAキラリ(設計:隈研吾)
・富山市民プラザ(設計:槇文彦)
・篁牛人記念館(設計:菊竹清訓)
・呉音(設計:隈研吾)
4日目(富山–射水–高岡–金沢)
・高志の国文学館(設計:シーラカンスアンドアソシエイツ)
・サンシップとやま(設計:黒川紀章)
・射水市大島絵本館(設計:長谷川逸子)
・射水市新湊博物館(設計:内井昭蔵)
・高岡市美術館(設計:内井昭蔵)
5日目(金沢–かほく–金沢)
・鈴木大拙館(設計:谷口吉生)
・金沢21世紀美術館(設計:SANAA)
・谷口吉郎・吉生記念金沢建築館(設計:谷口吉生)※建設中
・金沢海みらい図書館(設計:シーラカンスK&H)
・大野からくり記念館(設計:内井昭蔵)
・西田幾多郎記念哲学館(設計:安藤忠雄)
・海と渚の博物館(設計:内井昭蔵)
・金沢市立玉川図書館(設計:谷口吉生、監修:谷口吉郎)
6日目(金沢–加賀)
・イヴェールボスケ(設計:堀部安嗣)
・中谷宇吉郎雪の科学館(設計:磯崎新)
・片山津温泉総湯(設計:谷口吉生)
・山代温泉総湯(設計:内藤廣)
・九谷焼窯跡展示館(設計:内藤廣)
7日目(加賀–福井–敦賀–若狭–大津)
・福井県立図書館(設計:槇文彦)
・福井市美術館(設計:黒川紀章)
・敦賀駅交流施設オルパーク(設計:千葉学+ジェイアール西日本コンサルタンツ)
・福井県年縞博物館(設計:内藤廣)
・若狭三方縄文博物館(設計:横内敏人)
8日目(大津–近江八幡–多治見–岐阜–浜松)
・ラ コリーナ近江八幡(設計:藤森照信)
・多治見市モザイクタイルミュージアム(設計:藤森照信)
・みんなの森ぎふメディアコスモス(設計:伊東豊雄)
9日目(浜松)
※休息日
10日目(浜松–掛川–静岡–富士宮–東京)
・秋野不矩美術館(設計:藤森照信)
・資生堂アートハウス(設計:谷口吉生)
・グランシップ(設計:磯崎新)
・このはなアリーナ(設計:内藤廣)
・静岡県富士山世界遺産センター(設計:坂茂)
おすすめ建築TOP15
写真で見る建物と実際に見る建物の感じ方は想像通りであったり、それ以上であったり、それ以下であったり様々です。
ここでは10日間の北陸旅で実際に見た中で、特におすすめしたい建築TOP15を独断と偏見で紹介します。
(TOP10に納めようとしましたが、足らなかったのでTOP15にしました)
【15位】谷村美術館(設計:村野藤吾)
一言コメント…受付を抜けた先のシルクロードをモチーフとした景色に息を呑みました。
【14位】若狭三方縄文博物館(設計:横内敏人)
一言コメント…コルビュジェを思わせる樋先、そして内部の有機的洞窟が素晴らしかったです。
【13位】中谷宇吉郎雪の科学館(設計:磯崎新)
一言コメント…展示棟の奥、湖に面するカフェとの位置関係が絶妙でした。
【12位】このはなアリーナ(設計:内藤廣)
一言コメント…杉集成材が覆う大空間は圧倒的でした。
【11位】西田幾多郎記念哲学館(設計:安藤忠雄)
一言コメント…来館者の導き方が上手すぎでした。
【10位】福井県立図書館(設計:槇文彦)
一言コメント…非の打ち所がない大規模建築でした。安定感抜群です。
【9位】茅野市民館(設計:古谷誠章)
一言コメント…駅との接続の仕方、配置が巧妙でした。
【8位】金沢海みらい図書館(設計:シーラカンスK&H)
一言コメント…6000個の丸窓が作る中の世界は幻想的でした。
【7位】福井県年縞博物館(設計:内藤廣)
一言コメント…ハイブリッド構造、建物の軸線、この実直な表現こそが内藤建築です。
【6位】イヴェールボスケ(設計:堀部安嗣)
一言コメント…住宅的安らぎに浸れます。そしてケーキが至高の美味しさでした。
【5位】みんなの森ぎふメディアコスモス(設計:伊東豊雄)
一言コメント…うねりのある木格子天井の下にみんなが集まる、まさにみんなの森でした。
【4位】多治見市モザイクタイルミュージアム(設計:藤森照信)
一言コメント…写真で知ってても実物を見て「なんじゃこりゃ」と思いました。
【3位】安曇野ちひろ美術館(設計:内藤廣)
一言コメント…内藤さんが出来るだけ小さく作ろうとした理由が分かった気がしました。
【2位】ラ・コリーナ近江八幡(設計:藤森照信)
一言コメント…完全なる異世界に足を踏み込んだ感覚でした。外も中も見所が多いです。
【1位】富山県美術館(設計:内藤廣)
一言コメント…回遊性や内外の連続性、空間の濃淡のある順路、その設計が上手すぎでした。
[adchord]
おわりに
10日間で46箇所の建物を見ました。見たい建物はなかなか駅の近くにあってはくれません。
そのために1時間歩いたり、1時間に1本の電車に乗るために急いだりと、地方ならではの旅でした。
印象に残っている場面はたくさんあります。
富山の「呉音」という隈研吾さんの設計したカフェでは空間に馴染む丁寧な接客が心地よかったので、また行きたいと思いました。
近江八幡にある琵琶湖を望める長命寺への808段の階段は、もう登りたくないと思いました。
グランシップの静岡芸術劇場で、恐らくお偉い方なのだと思いますが、運営の仕組みなどを色々と説明をしてくださったこと、富士山世界遺産センターで富士山に登ったことのないという館員さんが建物内での映える富士山の撮り方を教えてくださったことは記憶に鮮明に残っています。
振り返ると非常に充実した旅でした。それにしても山代温泉に入った後に外のベンチで食べたセブンティーンアイスの美味しさは、形容し難く尊いものに感じたのでした。