はじめに「建築空間を味わいに行く」
・敷地を路地とつなぎネットワーク化する
・南北の開口により視線を通す
・構造材としての木製ルーバー(合理的なデザイン)
路地のネットワーク
場所は京都御所の西側にあり、敷地内は日本庭園的な作りになっています。周囲に開けた建物配置で、メインのアプローチは南側の一条通りからです。
その他に東からも西からも住宅地から路地のように繋がって、菓寮の東側に設けられている通路もその路地のネットワークに組み込まれています。そのため周辺に住む人々にとっての日常動線にもなりえます。
北側には「稲荷社」が元々あり、これまでは位置的に隠れて存在していましたが、それもうまく活用し表出させるようにしています。建物は南北に開口を持っているため視線が建物を通して、敷地の一番奥まで届きます。
南側を通った人にはその建物裏の庭や神社がある様子が見て取れます。上空写真を見ると緑とともに建物を取り囲む路地の様子が分かります。
外観の全体イメージと部分のマテリアル
外観は深い庇により屋根が身近に感じられるようになっています。屋根材には京瓦※①が使われています。そして縁側のような半屋外空間は簾戸によって可変性を持たせていて、瓦から切り替わるトップライトによって明るさの補正をしています。
軽やかな屋根
屋根はスチールと木のハイブリッド構造になっていて、内部から外部へと渡される木製ルーバーも建物の表情を作っています。小口を見てみると面取りされた三角形のようになっている六角形断面で、角が取れていることにより柔らかな印象がありました。
小口への装飾性という点では日本らしい考え方なのかと思いました。(例えば奈良にある平城宮跡の大極殿なんかも小口には装飾金物をつけていて、そこまでこだわっているのかと思ったのが記憶に新しいです。)
タイル貼りの外壁
また、南側のギャラリーの壁と菓寮の東側の壁はタイル貼りとなっています。そのタイル貼りはパターンを作っているそうです。
真物のタイルは正方形ですが、そのパターンは次の3つになります。
タイル張りのパターン
・□(四角形)を2分割したタイル[](半分×1)
・[][](半分×2)
・[][][](半分×3)
これらがランダムに散りばめられていて、それらは淡い桃色の釉薬※②により仕上げられています。
見学をした時に気がつかなかったのが残念でしたが、こういう細部へのこだわりから設計への強い思いが感じられてきます。
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吉野杉に包まれる内部空間
次に内部空間について紹介したいと思います。
構造材として機能する”木ルーバー”
内部に入ると天井のR加工されたルーバーが全体を覆っている空間に目を奪われます。この木は吉野杉※③の集成材が使われています。この木製ルーバーは化粧材だと思っていたのですが、どうやら違うらしいです。
実際はスチールの上弦材に対する下弦材としてこの木材が機能しているので歴とした構造材でした。R加工をしたいから集成材にしているだけかと思いきや構造材として使っているからという理由もあったのです。
それらは丸鋼の吊材でジョイントされているのですが、照明用の吊材も天井懐に混じっているので、設備と構造がうまく溶け込んでいました。いかにも内藤さんらしいなと思いました。隠れた合理性を含ませています。
端部のディテールと十字柱
ルーバーと開口上部の取り合いにはガラスではなくポリカーボネートが使われています。一つ一つの集成材の断面形状が微妙に違うため、それらに合わせてポリカーボネートを手作業で切ったそうです。
この取り合い部のディテールはかなり検討が難しいように感じましたが、出来上がったものを見るとその選択により美しいものになっていました。
また、ここでも開口部の鉛直荷重は十字の熱押形鋼で受けています。(内藤さんの設計する建物にはよく現れてきます。)
とらやでのひと時
今回は季節の羊羹ということで、秋であったため紅葉の絵が描かれている羊羹をいただきました。椅子やテーブルもゆったりとした大きさで作られているため安心してくつろげます。
普通の店では横に3人座れるスペースにとらやだと2人が座るので一人に充てられる面積が大きいです。多少値が張ってもその分の価値を空間とサービスとして十分に補っていると思いました。
Word
※① 京瓦…焼く前に磨くため、表面に独特の光沢が生まれます。
※② 釉薬…(読み:ゆうやく)素焼きの後に塗るもので、その後本焼きすると溶け、ガラス質の表面になります。
※③ 吉野杉…奈良県の吉野に生えていて高級国産材として使われています。初めに植林されたのが室町時代です。主な用途は酒樽の樽丸用材だったそうです。
・檜に包まれる上品な空間「とらや赤坂店」
・パリの新旧建築巡り《フランス旅》→パリには建築家・田根剛さんが内装設計をしたとらやがあります