はじめに「新井千秋さんによる設計」
2020年8月に開業した両国のアパホテル、アパホテル&リゾート 両国駅タワーの建物見学をしてきました。
なぜ見学したいと思ったかというと、こちらの建物の設計が建築家の新井千秋さんだからです。
「アパホテル」という設計基準が確立されているであろうホテルの設計として、どのくらい設計者は踏み込めるのかなど気になっていました。
その他にも1人の宿泊者として、どのような施設なのかを知るために実際にホテルに泊まってきましたので、そのレポートをしたいと思います。
なのでこの記事は、
・宿泊施設としてどんな感じなのか知りたい人
・新井千秋さん設計したアパホテルが建築的に気になる人
の双方に向けて書いています。
ホテルの概要については次の通りです。
【ホテル概要】
住所:東京都墨田区横綱1−11−10
客室数:1,111室
敷地面積:3,084.81m2
延床面積:25,169.75m2
階数:地上31階 地下2階
高さ:108m
構造:S造、一部SRC造
・都市に開き、新たな概念を作るカプセルホテル「ナインアワーズ浅草」
・宿泊して体験する建築「ナインアワーズ in 東京」
少し優雅な宿泊をさせてくれる館内の施設
せっかく宿泊するのであれば、泊まる部屋以外にも館内施設が魅力的であった方がより楽しいと思います。
ここは都市型のビジネスホテルですので、その辺も踏まえた施設が入っています。それぞれ紹介したいと思います。
地下1階 大浴場・露天風呂
地下1階には、この施設の見所の一つである大浴場があります。シャワーブースも多く、露天風呂も広いため、利用者としては嬉しいです。
露天風呂の脇には人が入れるサイズの桶が2つあり、1人でのんびり浸かるのに適しています。
「地下にあるのに露天風呂?」と思うかもしれませんが、ドライエリアが設けられ、地上と外気で繋がっているため、体感としては完全に屋外でした。
しかし、サウナはなかったのでそこは少し残念なポイントではありました。
また、地下1階にはフィットネスもあり、宿泊者は無料で使えるようですが、私は大浴場に集中するあまり存在を見落としてしまいました。
2階 コンビニ(ローソン)・まちカフェ
2階には24時間営業のローソンが入っています。
館内にコンビニがあり、いつでも買いに行けるのは有難いです。品揃えもそれなりにあります。
また、同じく2階にはまちカフェという休憩コーナーがあります。
ビジネスホテルであることもあり、ここでパソコン作業をしている人たちが多くいました。
この2階には1階エントランスに入った前にあるエスカレータと階段で上がれるので、宿泊をしない一般の人も入れるのかどうは気になったところです。
4階 レストラン
4階にはレストランがあり、2階から階段で続いています。
このレストランはバイキングになっていて、ディナーや朝食の会場になっています。今回は利用しませんでした。
31階(最上階) 展望レストラン・屋外プール
最上階には、東京の街を一望できるレストランとプールがあります。
展望レストランはお値段もそれなりにするのですが、屋外プールのプールサイドは無料で誰でも立ち入ることができます。
プール自体を利用するのは有料で、貸切で使うこともできるようです。
見学に行ったのが冬ではありましたが、プールサイドは普通に入ることができ、その情報をあまり宿泊者は知らないからか、完全に1人で独占状態でした。
周辺には高い建物がないため、開放的な景色を眺めることができました。
建物の構成を建築的に考察する
次はこのホテル内を「建築的な観点で捉えたときにどうであったか」というのをまとめていきたいと思います。
フロアプラン
まず、最上階(31階)のフロアプランです。各階に貼ってある案内板の写真を撮りました。
フロアプランからも外観からも分かる通り、台形になっています。
台形なので角が4つですが、その内2箇所の角は特別避難階段になっていますので、角部屋というものが少ないです。
開放廊下
フロアプランを見ても分かる通り、建物内には吹抜がいくつもあります。
そしてその吹抜は屋外になっており、そこに面する廊下も屋外(開放廊下)になっております。
廊下も屋外なので、冬に行けば寒いです。しかしそこには建築的な理由があります。
内廊下にせず、開放廊下とすると利用者側は外気に触れるデメリットがあったりするものです。
しかしホテル側としては、レンタブル比(延床面積に対する客室面積の割合)が高まるため、事業計画としては良いものになります。
採光に関してはちょうど私が泊まった部屋がそうで、窓を開けると吹抜・廊下になっており、決して外の景色は見られません。
つまり吹抜で屋外扱いとすることで採光が取れ、成立しうる部屋ということになります。
吹抜
ホテルの設計では、客室を建物の外側に並べて行きます。しかし平面形状が大きいと、建物の中央付近が余ってしまいます。
しかもそこが客室以外の部屋になってしまうとレンタブル比が下がり、ホテルの収益上非常に勿体ないです。
そのために建物の中央付近に吹抜を作り、その分の床を建物の上に積み上げていくということをしています。
この両国駅タワーも吹抜を作って、その分高い建物となり客室も1,111室というように多く確保できています。
エレベータと階段(縦動線)
建物の中央には、6機のエレベータがあります。
これらは群管理されていて、高層階用と低中層階用で3機ずつに分かれています。18階が切替階になっています。
そして階段が角2箇所にありますが、これらは避難階(1階)まで繋がる特別避難階段です。ちなみに非常時以外は使うことはできません。
そして15階以上の部分の避難については、歩行距離50m、重複距離25m以内にする必要がありますので、この配置であれば問題なく全体を網羅できます。
最上階にはプールがあり、その先に避難階段がありますので、非常時の避難経路の一つはプールサイドを通って階段へ向かうことになります。
他の部屋を通った避難方法は基本NGですが、プールサイドは問題ないということなのでしょう。
また、1階〜2階、2階〜4階には利便性を良くするために設けられた常用の屋内階段もあります。
地区計画
次は都市計画的な観点で見ていきます。
このホテルのある区域は、両国駅北口地区地区計画の範囲内にあります。
その中でも地区整備計画において宿泊地区に位置付けられており、容積率の限度が700%になっています。
この区域は用途地域上は商業地域で400%の容積率なので、+300%のインセンティブになっています。
また、地区計画の方針で、防災備蓄倉庫の整備を設けることとしていることから、ホテルの3階部分を丸ごと防災倉庫とし、区へ無償貸与しているそうです。
屋上にも防災倉庫はありましたが、そちらは墨田区の指導要綱で設けなくてはならないものかもしれません。
外観デザイン
この建物の設計は建築家の新井千秋さんが行なっており、新形小紋帳をモチーフとした窓周りの丸いデザインがされています。
従来のアパホテルは凹凸のない簡素なデザインというイメージなので、今回のような凹凸感は珍しいです。
建築家としては、更には新井千秋さんということですから、もっと大胆な建物にすることは如何様にも考えられたと思います。
しかし、やはりコスト重視であると思われるため、デザインにそこまでお金はかけられなかったのだと思います。
おわりに「他にもある両国の建築たち」
以上、宿泊を兼ねた建物見学でした。
実際に利用してみて、大浴場のあるビジネスホテルは価値が高いと改めて思いました。ホテル内に24時間営業のコンビニがあるのも安心です。
また、両国の建築といえば、第一に上がるのが菊竹清則さんの江戸東京博物館です。あのメガストラクチャは何度見てもスケール感に驚きます。
他にも槇文彦さんの刀剣博物館や、妹島和世さんのすみだ北斎美術館、ヨシダ印刷東京本社もあります。
リーズナブルな金額なので、両国のアパホテルに宿泊し建築巡りをしてみてはいかがでしょうか。
※ちなみに今回泊まった部屋は、運のいいことにたまたま最上階だったので、全体構成を把握しやすかったです。