はじめに「マンションデベロッパーによる初ホテル開発」
HOTEL THE LEBEN OSAKAに行ってきました。
ホテルは大阪の心斎橋駅より徒歩8分の距離にあります。
長堀通りの北側にあり、心斎橋の喧騒からは離れているため、落ち着いたホテルステイができるエリアに立っています。
このホテルの特徴として、マンションデベロッパーとして有名なタカラレーベンが初めてホテル事業に参入し、その第一号店ということが挙げられます。
一般的な20m2以下の客室で構成される宿泊特化型のホテルとは違い、最低30m2というゆったりとした広さの客室となっています。
今回はそんなHOTEL THE LEBEN OSAKAに宿泊してきましたので、宿泊者としての視点だけでなく、建築士としての視点も加えて紹介していきたいと思います。
普段マンションを作る会社が作るホテル。それはとても興味深く、そしてとても魅力的なところでした。
外観から細部まで、マンション的なホテルの作り
HOTEL THE LEBEN OSAKAは交差点に立つ地上15階建の建物です。
実は「15階」というところにもマンションらしさが感じられます。
15階というのは、階高を抑えることで非常用エレベーターの設置を緩和できるギリギリのラインになるからです。
今回は宿泊者用のエレベーターとスタッフ用のエレベーターを兼ねた計画でした。
外観はバルコニーが各階に壁面にぐるっと周り、交差点の角はファサードとしてカーテンウォール風に設えられています。
バルコニーが外壁を取り巻いていると、それだけでマンションっぽい印象になるものです。
受付は1階にありますが、ガラス張りの風除室を通り、そしてエントランスロビーに入ります。
外から外構・風除室・ロビーへ向かうコンパクトな連続性にもマンションらしさが感じられました。
それはゾーニングの堅実さとインテリアの安らぎによるものだと思います。
最近の魅力的なホテルは「インテリアの驚き」を作っていますが、ここは驚きではなく安らぎを重視していました。
ワイドスパンのゆったりとした客室
受付でチェックインを済まして客室へ向かいます。建物は2階から15階までが客室になっています。
客室フロアの廊下はシンプルの構成ですが、壁の木調クロスによって落ち着きが感じられました。
ホテルは各フロア8室で構成されており、最上階の15階のみ3室のみという特別フロアになっています。
さらに前述した通り、最低30m2というゆったりとした広さで客室が構成されています。
周りのホテルは宿泊特化型で20m2以下のところが多い中、差別化を図るという意味でも広く作られています。
今回宿泊したのはスタンダードツインのお部屋で、このホテルの中で最も多い部屋タイプになります。
参考までに、客室全107室のタイプ別の内訳を載せておきます。
部屋タイプ | 面積 | 部屋数 |
スタンダードダブル | 30m2 | 1室 |
スタンダードツイン | 30m2 | 50室 |
スーペリアツイン | 40〜41m2 | 25室 |
レーベンツイン | 43m2 | 13室 |
コーナーダブル | 37m2 | 13室 |
レーベンスイート | 84〜88m2 | 3室 |
ユニバーサルダブル | 30m2 | 2室 |
レーベンスイートの3室が最上階に位置しています。いつか泊まってみたいです。
そして部屋の玄関ドアを開けると、すぐに寝室が現れます。
玄関ドアのすぐ近くに下足入れがあり、部屋の中では靴を脱いで過ごすようになっているのも、このホテルの特徴です。
玄関を入ってまず寝室が近くにあるという配置計画は珍しいですが、ドアの遮音性もあり、廊下からの音が聞こえることもありませんでした。
寝室の横にトイレ・洗面・浴室があり、その水回りが隣の客室との間にあるというワイドスパンの客室計画が成せる配置で、隣の客室の音が気になるということもありませんでした。
水廻りはシンプルに住宅らしい安心感のある雰囲気でした。
部屋の雰囲気は木目調クロスが使われていて、落ち着く安心感が強かったです。
インテリアはグレージュトーンで構成するという考えのもと全体をまとめているようです。
また、部屋の中は間接照明やペンダントライト、1人掛けのソファ、丸テーブルなどホテル的な空間を作り出す要素が多くありました。
HOTEL THE LEBEN OSAKAの個性的な運用
HOTEL THE LEBEN OSAKAでは一般的なホテルとは違う、次のような運用方法がありました。
1.レストランの省略
2.フロントへの電話連絡
3.アメニティの任意選択
それぞれ一つ一つについて書いていきたいと思います。
1.レストランの省略
まずレストランの省略についてです。このホテルにはレストランがありません。
ですが今回は朝食付きで予約しておりました。
朝食はテイクアウトになっており、指定の時間に部屋の前に置いておいていただけます。
こだわりのある朝食BOXとなっており、船場エリアで大人気の船場トースト「Dali」とコラボしています。
機内食のように朝食がまとめられていたので、味はどうなのかと怪しんでしまったのですが、非常に美味しかったです。
野菜は新鮮で、食パンはしっとりとして、どれも味付けが美味しかったです。
ホテル側としては、レストランを無くすことでホテルの運用コストを大きく下げられるので、それもありだと思いました。
それに近くにはレストランが沢山あるので、そこと競合してまで作る必要があるかという検討をして、その結果レストランを無しにしたそうです。
2.フロントへの電話連絡
次にフロントへの電話連絡についてです。
一般的には各客室に電話が設けられていますが、ここでは各客室内に電話はありません。
その代わり、フロントに連絡する際は各階のエレベーターホールにある電話を使います。
最初のチェックイン時にその旨を聞いた時は不便だと思ってしまいましたが、そんなことはありませんでした。
ホテルの貸出し品などは、部屋備え付けのテレビから注文できるようになっています。
私はオーディオなどを注文しましたが、これまで電話でリクエストしていたのはホテル側も宿泊者側も面倒くささはあるので、良い運用方法だと思いました。
例えばハイアットなどではタブレットでアメニティを注文できる運用をしていますが、色々なホテルで採用できる運用かなと思いました。
3.アメニティの任意選択
そしてアメニティの任意選択についてです。
部屋には歯ブラシと備え付けのシャンプーくらいしかアメニティは置かれていません。
それ以外は1階のエレベーター前のアメニティコーナーで欲しいものを取るというスタイルになっています。
具体的にはコットンや化粧水、乳液、洗顔、化粧落とし、カミソリなどが置かれています。
最近のホテルですとサスティナビリティへの配慮から、化粧水などはスタッフさんへリクエストをしなければ貰えないところがほとんどです。
しかし、使いたい量だけ自由に持っていけるというこのスタイルはとてもいいなと思いました。
他にも紅茶パックやフルーツウォーターなど、そちらも部屋に持っていくことができるようになっています。
建築士視点で気になった点
私は普段建築の設計をやっているため、建築的なことで気になることが多々ありました。挙げてみると次の通りです。
1.避難経路とバルコニー
2.エレベーターのインジケーター
3.靴を脱ぐというアフォーダンス
4.客室の給排気
それぞれについて書いていきたいと思います。
1.避難経路とバルコニー
かなり専門的なことになりますが、このホテルは屋外避難階段が1つ、避難器具が2箇所についています。
そのためにバルコニーが建物周りをぐるっと取り囲むようになっています。
気になったのは避難器具は1箇所でいいのではないかという点です。
今回の計画では、廊下の突き当たりに階段と避難器具(バルコニー)があるので、もう1つプラスしてある理由が何なんだろうと思いました。
大阪の条例なのか、消防絡みなのか、条例を少し見てみるとハシゴ車による消防活動が必要な建物規模に該当していたのでその絡みなのかもしれません。
客室内にある避難経路図にも避難器具は1箇所しか書いていなかったので、やはり一つは消防活動用なのかもしれません。
2.エレベーターのインジケーター
次はエレベーターのインジケーターについてです。
インジケーターとはエレベーターの階数表示がされる部分のことです。
このホテルではインジケーターが各階についていました。マンションですと付いているのが一般的ですが、高級ホテルでは付いていないことが多いです。
さらに階数が今回15階なので、今何階に停止しているという情報は「来るまで待ってください」という合図でもあるので、ホテルでは敢えてしなくてもいいのではないかと思いました。
それに今回のホテルグレードは高級ホテルに値すると思うので、尚更そのように思ってしまいました。
3.靴を脱ぐというアフォーダンス
こちらはあまり建築的なことではありませんが気になった点です。
まず、玄関で靴を脱ぐというのがこのホテルのコンセプトです。
それ自体は共感できるコンセプトなのですが、アフォーダンス(行為を誘発するもの)があまり付随していない気がしました。
というのも玄関土間にあたる部分が狭く、扉を開けて、閉めてから靴を脱ぐというスペースが十分になかったからです。
マンションと違い、ホテルは扉が内開きであるところも関係していると思います。
そちらに加え、玄関の先がカーペットになっているところもそこを素足で入っていいのかという疑問を持ちました。
一般的に「家のよう」ということですとフローリングがいいのではないかと思いました。
靴を脱ぐけれど素足でなくスリッパ、ということですとあまり他のホテルと大差ないのではないかと思ってしまいました。
これは建築+インテリア+運用が三位一体で絡むので、簡単そうに見えて難しいコンセプトかなと思いました。
4.客室の給排気
一般的なホテルですと、共用部分から各客室に給排気をとります。
しかし、今回は外壁に給気口も排気口も付いていました。
寝室で給気し、水回りから排気するというのが、外周にバルコニーがあるから計画しやすいためでもあり、マンション的な解き方だなと思いました。
その給排気計画は敢えてマンション型を採用したのかもしれません。
空調が天井カセット型なところもホテルというよりはマンションっぽい考え方かもしれません。ホテルだと隠蔽型の採用が多い気がします。
気になった点を諸々書いてみましたが、総合評価としては非常に過ごしやすく、すごく良いホテルでした。
それはスタッフさんのホスピタリティやデザインのクオリティが高いからだと思っています。
おわりに「独自のポジショニング」
以上、HOTEL THE LEBEN OSAKAの紹介でした。
ホテルがオープンしたのを知った時、建築的にすごく勉強になりそうだと勝手に思っていましたが、本当にその通りでした。
そしてマンションデベロッパーが手がけるホテルという、個性的な特徴を多くの人に知ってもらいたいと思いました。
ホテルのポジションとしては、一般的なホテルと長期滞在型のアパートメントホテルの間らへんに位置するかと思います。
このポジションは、まだ未開拓の部分が多いように思っています。HOTEL THE LEBEN OSAKAは独自のポジショニングで今後より有名になるホテルではないかと思いました。
HOTEL THE LEBEN OSAKA(ホテル ザ レーベン大阪)
HOTEL THE LEBEN OSAKA建物情報
住所:大阪府大阪市中央区南船場2-2-15
建築主:SMFLみらいパートナーズ
事業主:タカラレーベン
設計:永都設計
インテリア:イチミリデザイン
施工:イチケン
用途地域:商業地域
敷地面積:851.74m2
建築面積:482.38m2
延床面積:6,270.22m2
容積率:706.48%(許容容積800%)
構造:S造
階数:地上15階 地下1階
最高高さ:44.99m
階高:3.80m、2.86m(基準階)、3.21m
客室天井高:2.4m(最上階は2.48m)
客室数:107室
オープン:2022年3月
※ここはタカラレーベンの自社ホテルブランドとして、そして創業50周年記念ホテルとして2022年3月にオープンしました。