はじめに「設計事務所での経験を記事へ」
私は前職のハウスメーカーから設計事務所へ転職しました。そして、そのハウスメーカーでの経験を等身大で記事にしたところ、幸いなことに多くの方々に読んでいただけています。
なので、今回はその”設計事務所バージョン“として、設計事務所についての記事を書きたいと思います。
一般的に「設計事務所はブラックな会社」というイメージがあると思います。
でも「実態はどうなのか」、「どんなことをしているのか」など、設計事務所への就職や転職を考えている方や、詳細を知りたい方へ向けて、様々な情報をお届けできればと思います。
設計事務所とはどんなところ?
設計事務所に対して、どのようなイメージを持っていますでしょうか。ちなみに私が入社する前に抱いていたイメージは次のようなものがあります。
【設計事務所のイメージ(自分の場合)】
・幅広く建築に携われる
・仕事量が多い
・長時間労働
結論から言いますと、上記はほとんど認識どおりでした。
「プラスの側面もあればマイナスの側面もある、その振れ幅が大きいのが設計事務所の特徴」だと思います。
前職のハウスメーカーの時と比較すると、次の表ようなイメージです。
ハウスメーカー |
設計事務所 |
|
専門分野 |
住宅 |
全て |
業務範囲 |
一部のみ(基本設計・実施設計など) |
全て |
残業 |
月30時間(1日1.5時間) |
月80時間(1日4時間) |
給料 |
結構良い |
平均より劣る |
そして設計事務所と言っても、方針は会社によってそれぞれであり、受注の仕方や、専門分野などはそれぞれで異なります。
コンペを中心に仕事を取るようなスター建築家の事務所もあれば、人脈を元に仕事にしている事務所もあります。
設計事務所に向いている人とは?
先ほど「プラスの側面もあればマイナスの側面もある、その振れ幅が大きいのが設計事務所の特徴」と書きました。
ではどんな人が設計事務所に向いているか、私の考えるところですと次のような人です。
・様々な経験を積み、将来独立したい人
・様々な経験を積み、大手企業(ゼネコンやデベロッパー)に入り活躍したい人
これらのような目標のある人が向いていると個人的に思います。逆に明確な目標が無いと、厳しい環境ではないかと思います。
しかし、もしゼネコンやデベロッパーに入りたいなら、初めからそこを志望すれば良いのではないかという意見もあるかと思います。
それでも構わないとは思いますが、設計事務所を経験した人は、建築や不動産に対した幅広い知識が身についているので、より活躍できると思っています。
働き方こそブラックかもしれませんが、そこで身につくことは数社で働くこと以上の価値があると思っています。
一級建築士の資格がステップアップに必須
そして、もし上記のような目標を持っている人がいて、結構重要なのが一級建築士の資格です。
勿論資格が無くても活躍している人はたくさんいます。ですが、将来独立や大手企業に転職を考えるのであれば、一級建築士の資格は必須です。
しかし、設計事務所で働きながら取得するのはそうそうできるものではありません。なぜなら勉強時間の確保が難しいからです。
一級建築士がないままだと、設計事務所から次のステップへ進みたくても進めないという状態に陥ってしまいます。
なので将来的な考えがある場合、資格を持った状態で入社するか、資格取得の時間を確保することも了承をもらった上で入社するなどした方がいいです。これは実体験から強く思うことです。
設計事務所の仕事内容と流れ
では次に、設計事務所の仕事内容とその流れを紹介します。流れについては、大まかに次のとおりです。
【仕事の流れ】
①ボリュームチェック、提案、コンペ
⬇️
②基本計画
⬇️
③基本設計
⬇️
④実施設計
⬇️
⑤工事監理
一つ一つ順を追って内容を紹介します。
①ボリュームチェック、提案、コンペ
この作業は受注のためのフェーズになります。建築主などからある敷地に対して、どのくらいの建物が立つか、という検討の依頼があります。それがボリュームチェックです。
その結果を元に、建築主などはプロジェクトを進めるかなど判断し、次のフェーズへ進むことになります。あるいは、ボリュームチェックではなく、どんなデザインの建物にするかなど、提案の依頼やコンペもあります。
それらが良い方向へ進めば、設計契約ということになり、次の基本計画へ進むことができます。
②基本計画
基本計画はゾーニングや全体構成など、ガワや方針を固めるフェーズです。しかし割と抽象的なフェーズであるので、大規模なプロジェクトでなければ、先ほどの「ボリュームチェックや初回提案」の中に組み込まれることが多いです。
大規模であると、配置や法規や構造、都市計画など、多角的な検討が必要なのがこのフェーズです。
③基本設計
意匠・構造・設備で全体を固め、成り立つ建築とするのがこの基本設計のフェーズです。大まかに全体構成はFIXさせた上で、それぞれの取り合いで調整が必要なところなどを抽出し、図面へ反映していきます。
その他、法規や条例の確認が多く必要な段階であり、役所への相談や消防協議、各種打合せなども同時並行で進めていきます。
この基本設計で完璧に納める必要はないですが、実施設計に入って破綻することがないように、必要な事前確認は行い、仕様などを明確しておくことが大切です。
④実施設計
基本設計まで詰めてきた図面を、実施設計にてより細かな納まりを決め、全体を構築していきます。平面的・断面的情報の整合を図り、現場へ引き継げる図面としていきます。
なので、あらゆる情報がこの実施設計にて図面へと盛り込まれます。そしてこの実施設計図にて、役所協議や確認申請など、必要手続きを行います。
設計の山場の一つは確認申請です。法規の確認不足があると計画が変更になったり、最悪工程が遅れ、着工や竣工に影響してしまうこともあります。なのでそれが無いような綿密な設計が求められます。
⑤工事監理
確認申請で済証を所得したのちに工事着工ができますが、工事に入ってからも設計者は監理者として関わります。具体的には現場定例に出席したり、承認図のチェックをしたりなどです。
図面に描いていたものが現実に立ち上がっていく瞬間なので、非常にやりがいが感じられる場面です。
また、この工事監理にてもっとこうすれば良かったなど、反省点も上がってくるので、次の設計にフィードバックできるいい機会でもあります。
以上①〜⑤の工程が、一般的に設計事務所の行う業務の範囲です。もちろん異なる進め方や業務をしているという設計事務所もあるかと思いますので、一般的な事務所としての参考までにとお考えください。
設計事務所で働くメリットとデメリット
設計事務所が気になっている人にとって、最も知りたいのは「そこで何が得られるのか」、「どのくらい大変なのか」といった、メリット・デメリットかと思います。
私は入社する前に決して経験者の話を聞いていたわけではなく、事前に聞いていたらよかったなと思ったので、ここに記しておきます。
飽くまでも、とある事務所の場合であり、全ての事務所に当てはまる訳ではないのは、改めてご了承ください。
□メリット
①設計という仕事のほぼ全ての工程に関われる
→確実に1人でやれる力が身に付きます。
②膨大なインプットにより、短期間で力が付く
→業務範囲が広いことに加え、細部にも詳しくなければ設計できないため、インプット量は凄まじいです。
③プロジェクトが多種多様
→様々な用途や規模、構造のものに関わることができます。それだけ経験量は増えます。
④十人十色の経歴や強みを持った人たちが集まる
→設計事務所歴の長い万能な人や、組織設計出身の人、ハウスメーカー出身の人など、それぞれが特定の分野に強い人が集まるため、相乗的な知識を得やすいです。
□デメリット
①長時間労働
→設計の工程全てに担当者として携わるため、仕事量が多く、労働時間が長いです。休日出勤もすることはあります。
②給料が低い
→設計事務所の求人など見ると分かるかと思いますが、給料がかなり低いです。私の事務所はそこまで低くありませんでしたが、それでも前職よりはうんと下がりました。
しかし、デメリットについては、設計事務所で働くとこによって得られる経験的な対価によって、十分に補えると思います。
1年働くだけで、一般企業の2〜3年分の力が身につくことは確実に言えます。なので目標に向けた修行期間だと考えることで、デメリットは受け入れられるのでは無いでしょうか。
私自身も、最初から修行だと思って入社しました。なので単に、様々なプロジェクトに携わりたいという気持ちだけだと、この境遇に耐えるのは難しい思います。それで辞めていった人たちも見ています。
しかし先述したように、
・様々な経験を積み、将来独立したい人
・様々な経験を積み、大手企業(ゼネコンやデベロッパー)に入り活躍したい人
といった向上心の高い人には、是非とも設計事務所で働くことを選択して欲しいです。大手企業で働くよりも、多くを学べるはずです。
そしてその知識や経験の蓄積が大きな自信に繋がります。
設計事務所で働いたら、働いた分だけ能力は格段に上がります。
就職・転職を考えている方へ向けた設計事務所の探し方
では、どのようにして設計事務所探しをすればいいか、実体験を元に紹介します。
人づての紹介以外ですと、例えば次のような就職サイトを経由した探し方が主流だと思います。
設計事務所探しに有効なサイト
・A-worker
・architecturephoto
・クリーク・アンド・リバー
・マイナビ転職
それぞれのサイトにも特徴があるので、個人的な意見を交えて一つ一つ紹介します。
A-worker
建築設計専門の就職サイトです。設計の中でも、割と実務的な会社が多いようなイメージです。デザインもやるけど、設計者としての実務経験を優先的に積みたいという人にはA-workerがおすすめです。
architecturephoto
いわゆるアトリエ系の会社が多く募集されています。有名な設計事務所もここでの求人をよく見かけます。有名な建築家の元で働きたい人はこのサイトで求人を探すのがいいと思います。建築をやっている人に広く知られたサイトですので、学生からの応募もarchitecturephoto経由が多いです。
クリーク・アンド・リバー
転職エージェントが付いて、転職先を一緒に探してくれます。私の周りにもクリークアンドリバーを経由して転職している人は多いです。希望を伝え、それにマッチした会社を紹介してもらい、面接するという流れになります。探す時間が無い人や会社選びに不安がある人には向いていると思います。
マイナビ転職
上記の3つのサイトとは少し毛色が異なります。大手求人が多い中で、稀に設計事務所もあります。募集側でマイナビを利用するのは費用的な負担が大きいのですが、それでも良い人を取りたいということでもあるので、ホワイトな会社であるイメージがあります。私も利用したことがありますが、優良企業という印象でした。設計事務所探しの選択肢を増やしたい人に向いているかと思います。
20代・第二新卒・既卒向け転職エージェントのマイナビジョブ20’s(トゥエンティーズ)
以上から、私の実体験を踏まえた意見ですと、設計者として総合的な力を付けていきたいという人にはA-workerがいいかと思っています。是非ご参考までにしてもらえると嬉しいです。
おわりに「設計事務所で目的を持った働き方を」
以上、設計事務所について紹介しました。経験者の視点で記事を書いたので、読み手側に有益な情報になっていることを願っています。
まだまだお伝えできることはあるかと思いますが、一旦概要を纏めさせて頂きました。私の経験が少しでもお役に立てていれば幸いです。