建物を貫くエスプラナード「熊本県立劇場」

建築

はじめに「自動車中心の市街地」

熊本県立劇場は熊本県熊本市の市街地から少し離れたところにある劇場です。設計は前川國男さんです。

アプローチ部分に劇場案内などの看板に混じって前川さんの設計の紹介がありました。そうやって設計者の紹介がされているのを見ると嬉しくなります。

夜に行ったということもあり、外観は闇に溶け込んでいましたが、ガラスから内部の光が漏れていました。

劇場は平日の夜ということもあってイベントはやられていなかったのですが、幾人かが通り抜け動線のように中の通路を使っていました。

大通りからその通路を抜けた先には広い駐車場があるくらいなので、駐車場を利用していた人なのだと思われます。

周りは柵で囲われていたので敷地がどこかとつながっているようには見えませんでした。

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エスプラナードと打ち込みタイル

敷地に入ると正面の両側にキャノピーがあり、その右側には駐輪場、左側にはバス停があります。敷地内に都市機能が入り込んできています。

エスプラナード(散歩道、空地)の地面には特製のせっ器質タイルが使われていて、ホワイエに入り込み、通路を抜け、駐車場側まで同一のタイルが使われていました。

一部の壁のタイルには前川さん考案の打ち込みタイルが使われていました。

東京都美術館に使われているものとサイズと色、釉薬のテカリ具合も似ていました。

随所に散らばる前川感

内部に入ると人が全くいなく、自分の足音が響くくらい静まり返った空間でした。ほぼ独り占めです。

人がいてこその空間であることが逆説的に伝わってきました。内部の構成は東京文化会館と似ています。

ホワイエの2層吹抜けの上部分はガラスになっていて、2層から1層になるという高さの変化やスロープが東京文化会館と類似していました。


矢羽根型枠の打ち放しRC

コンクリート打ち放しの壁は矢羽根型枠が使われているところがあり、最近人気のヘリンボーン柄が30年以上前にここで使われていました。

コンサートホールにも矢羽根型枠は使われています。

ホールの中に入れなかったのは残念ではありましたが、ホワイエの部分だけでもいくつも思考を巡らせることができ、大満足です。

家具や装飾

木製手すりは三日月型にデザインされていました。

チェアは前川デザインの天童木工オリジナルで、東京都美術館のものと似ていますが少し異なっていました。

そのほかにも照明器具のデザインも幾つかあり、それぞれに上品さがあります。


おわりに「敷地の相関関係」

夜であると外が暗いため内外がどのような関係にあるのかが分かり難いですが、「敷地」という視点からすると一方向のみのアプローチだったので少しもったいなさを感じました。

敷地の北側には大学があり、その境が切られていたので、このくらい広い敷地であるから閉じるより開放した方がいいのではというのが個人的意見です(管理上の問題はあるのでしょうが)。

また駅からは遠いところにあり、車も多い熊本という立地とホールの性質上、駐車場を広く取らなければならないというのは与条件であったのだろうと思います。

エスプラナードがどこかに接続しているともっと都市空間に溶け込めたのではないかと思いました。ただ、建築としては見ごたえ抜群の劇場でした。

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